わたしの初恋、小さくまとまるなッ!

文字数 1,685文字


「人とは違ったことをして」目立ちたい中学一年生、的場矢射子。
「誰かが作ったレールの上なんか走りたくない」が口癖だ。
恋には無頓着だったヤイコが見つけた初恋の相手はクラスメイトの平岩和馬。
地味な存在だけど、独特な雰囲気がタマラナイのだ。
「目のつけどころが違うね!」と友達に言われ、「さすが、アタシ!」と有頂天のヤイコ。
強気なヤイコは猛烈にアタックするが、カズマは目立つことを避けたがるので恋はなかなか前に進まない。それでも何とか初デートにこぎつける。
クラスでは目立たないカズマだが、特別な力があった。とにかくプレゼントのスケールが大きいのだ。
「何もあげるモノがないけど、夜ならプレゼントできる」
そう言ったカズマは、ヤイコをライトアップされたお城へ連れて行く。
階段を上がると、誰もいない境内。街の夜景は二人だけのものだった。
すべてが停止して見える。どうやらヤイコのためだけに夜の時間がストップしているのだ。
「こんなプレゼントしか出来なくてゴメン」と謝るカズマに、言葉が出ないヤイコ。


スゴい能力を持ったカズマだが、どうやら「誰かのため」にしかパワーを使えないらしい。
ヤイコが「海が見たい」と言えば瞬間移動でハワイにいる。「空を飛べたらいいな」とつぶやけばフワリと体が宙に浮き、鳥のように飛ぶことができた。
こんなカレシ、「目のつけどころが違う」どころの話じゃない! 友達に相談したくても、他人に知られてしまったらカズマがどこかの研究所に連れて行かれ、閉じ込められてしまいそうで怖くて言えない。
だが、「特殊能力を持っているのでは?」と怪しい研究所に目をつけられたのはヤイコだった。SNSに「空飛ぶ少女」や「突然ワイキキビーチに現れ消えた日本人」としてヤイコの動画がアップされ、バズったのだ。「それ、アタシ!」とアピールしたいが、とんでもない騒動になりそうで口をチャックするヤイコ。
ある日、ヤイコの前に二人の黒いスーツの男が立ちはだかる。
「テレポーテーションできるのか?」「空を飛べるのか?」
矢継ぎ早に問い詰められるヤイコ。
そんなピンチのヤイコの前に現れ、体を張って守ってくれたのはカズマだった。


その後も研究所の面々がヤイコの「超能力」を目当てに勧誘に訪れる。
だが、その度に守ってくれるカズマ。その背中の大きさに、頼もしさを感じるヤイコ。
しかし、うっかり街頭インタビューを装った研究員を相手にヤイコが「カレシ自慢」を口にして、絶体絶命のピンチが訪れる。
ついにパワーを使ってヤイコを空に飛ばし、さらに瞬間移動させて逃がすカズマ。
「こういう時にどうして時間を止めないの?」とヤイコがボヤいても後の祭りだった。
とうとう言い逃れできなくなり、カズマは研究所に連れて行かれてしまった。
カズマの安否を心配するヤイコは居ても立ってもいられない。
だが、突然カズマの超能力は消えてしまった。ヤイコの前に帰って来るカズマ。心配する「ヤイコのため」にカズマはパワーを消し去ることが出来たのだ。
カズマはごく普通の中学生に戻った。ごく普通の学校生活に戻るヤイコとカズマ。カズマのオーラのような独特な雰囲気も消えてしまったように感じる。それでもホッとするヤイコ。これで堂々と友達にカズマの話ができる。
とっても頼れるデッカイ背中のカズマは、とっても自慢のカレシなのだ、と。


カズマは「もう何もプレゼントがない」と泣き顔になる。その点はヤイコもちょっぴりガッカリしていた。
しかし、ヤイコは気づいた。人と違うことをして目立ちたかったのは、みんなと同じ舞台で争って負けるのがイヤだったということを。
小さくて弱い自分を初めて認めて涙するヤイコ。
「レールの上を走りたくないって言ってたけど、自分で作らないとレールなんてないんだね」
肩を落とすヤイコに、カズマが寄り添う。
「走らなくても良かったら、一緒に歩こう。一歩ずつ、ゆっくり」
その言葉にうなずき、微笑むヤイコ。
一歩ずつの歩幅は小さくても、カズマと一緒ならどんなに遠い場所だって行けそうな気がする。
「二人並んでデッカイ景色を見るんだ!」と夢をふくらませるヤイコだった。

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