第5話 提案

エピソード文字数 2,163文字

 男たちは何も言わずに去った。クバリにウォーケンすらも僕の一芸を見た瞬間に目の色を失ったように覇気がなくなり、近くにいた男に紙片を渡して、去って行った。

 だが、それですべてが片付いたわけでもない。

 ここから出る手段は未だに見えないままだ。

「よう兄ちゃん、さっきはすまなかったな」

 思案していると、まだいたらしい。さっきの男たちのうち、二人がまだ居残って、こちらを値踏みしていた。

 ひょろいのがまた背中に隠れる。近づいてきたのは、最初に話しかけてきたやつだ。その横にはひょろい自分を襲おうとしたロイってやつがいた。自然と距離をとる。

「へっへっへ。いやすごいわ。すごかったわ。生まれてこの方、あんなすったまげた事しでかす奴に巡り合えるとは思いませんでしたわ」

「ほんと……ほんと」

 ロイのゆっくりした声にイラつくように早口で、

「あんたら、どこの出ですかいね。うちらは」

 その前に、と僕は手で制した。

「今この場でいうべきことが思いつかない輩に用はない、帰るぞ」

 そう言って彼らと縁を切ろうとした。すかさず、前に回り込まれた。

「ったあたあ! 待った。わかってまっせ。ほれ」

 そう言って煤けた腰の巾着から取り出したのは、フルーツの実。

 二つ、三つ、いや、ぼとぼとと、零れ落ちてくる。

「まあ軽い詫びでっせ。いやあね、ほれ。ここなーんもないでしょ。遊びの一つでもしてねえと、脳がバグっちまう。許してくんねえ」

 まあいいかと言える立場でもないし、また通り過ぎようとしたら、また塞がれた。

「待った待った。あんたら、あんだけのもん持ってんだ。或いはここのリーダーになれるかもしんねえ、いやなれる。だから」

「すまんが、あの手の行為に俺は感情を抱かない。是も非もない。陰も陽もない。邪も正もない。話すことはない。じゃあな」

 続きはきかなくてもわかったので、また去ろうと今度こそ歩幅を大きくすると、今度はロイという大柄が立ち塞がった。

「……必要なんだ。なあ兄」

 兄らしい男が、別の袋で水を飲んでいる。

「おう、そうだな。じゃあとりあえず、交渉だ。俺達の財産全てと交換でいい。髪もなんもはいでいい。だから、頼む!」

 続けざまだった。頼む頼む頼む。

 大の男が、人を襲った直後に頭を垂れる程みっともない事はない。

 また無視していこうとした時だった。

 肩を引っ張られた。力は弱いが、意志を感じた。

「まって。何か訳があるみたいだ。聞こうぜ、昨日の人」

 仕方なく僕は従うことにした。

 話の内容はこうだ。

 現在この島でとある実験をしている。

 その名も魔喰いの監獄実験、というらしい。

 王都の方でリーダー二人宛てにきた伝令のひとつでもある。

 魔喰いの殺し方と、その御し方について学び報告しろ。

 精確な意図はわからない。感染者の一人をこの島に放って何かをしようとした。

 ゴミも罪人もゴミ箱に放り込み、そのうえで、罪人を更に利用して、魔喰いの安全な殺し方というのをずっと編み出し考え続けていた。

 どこでもやっていることは一緒だったわけだ。

 魔喰いは感染する。一度感染したら、そいつはもはや脅威だ。

 一国を滅ぼしかねない魔喰い感染者を相手に国がしたことといえば、こういったリンチや相手の能力の無力化と、束縛と、断頭くらいである。

「だからな、あん二人のリーダーは、実は罪人を名乗ってはいるが、実は特殊な訓練を積んだ、屈強な兵士だって話だよ。だから、命も惜しいし、あんたが壊したあの鎖の堅牢さはよく知っていたはずだ。勝てないと思ったんだろうな」

 勝てないたって、勝ち方はいくらでもありそうなもんだが、まあ様子見ってところだろう。

「あんた、俺より強い」

 ロイがゆっくりと、巨人のような声で話し、鼻息を吹く。

「そこで相談だ。罪人はさ皆殺されちまう手筈なんだ。そこの女も同じだよ、だから」

 そこで僕が顔を傾けると、男が言葉を中断し、女と呼ばれたひょろいのが、向く。

 たしかに肌が白いし、ひょろいし、背が低いし、女みたいだったが、声は男のものだった。

 察するならば、鍛えたのかもしれない。男の声を。ここに放り込まれた時点で、徹底して。

 そういえば彼女はずっとローブを纏っている。頭も顔も隠しているから、わからなくても無理はない。

 身を守るため以外にないが、ふと彼女の余命を思い出す。そういえば10日もないと、言っていた。そして、今の話の流れだと魔喰いに心当たりがあるのは一人しかいない。

「…………まあいい。とにかく抜け出したいわけだ?」

 すると男二人がこくりと。後に続くように彼女も頷く。

「へっへ、どうするよ旦那。このまま奴らに捕まるか、御しながらなんとかひいひい言いながら明日もない暮らし。この土塊に骨をうずめるか」

「策もないうえに」

 兄の方が言葉を遮って、あると言った。

「まあいいや、とりあえず、明日話す。もうあの二人はおねんねしてる頃だろうよ。旦那らも寝ときなって。ただあし、戻るのに日が明けそうだから、自由にしなよ。明日は、仕事はなしだ。鉱山の裏で待ってる」

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

後々記載するにゃ

実は前に出した分を削除してしまったので再投稿にゃ

因みに吾輩は作中で喋る猫として登場するにゃ

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み