(29/47)俺のせっかくのギフトを!

文字数 2,701文字

 なんだなんだ?
 俺は笑い声の方を見た。
 そこには服も含め全身が灰色に覆われたかのようなお爺さんがいた。
 長く伸びたグレーの眉毛と髭。目も口元もそのグレーに隠されている。
「カイとやらよ」
 その老人は大きな笑い声から一変して静かで落ち着いた声を出した。
「若い頃の苦労は大変じゃろう。ふむ。そしてな……歳をとってからの苦労も大変なのじゃ」
 そう言うと席を立ち宿屋の外に出て行った。
 みんな静まり返ったままだ。
 しかし、あのお爺さんの言葉はどう言うことだろう?
 俺に助言的なことをしてくれたんだろうか。
「「「「「あ〜……」」」」」
 多くのため息で空間が満たされ、ゆっくりと次々に声があがった。
「……モブ爺」
「まただよ」
「やられた」
 モブ爺?
 口々に出てくるのは残念口調な言葉たち。
「モブ爺?って誰?」
 俺はきょろきょろと周りを見渡し質問をする。
 リタが応えてくれた。
「モブ爺ってのはね……盛り上がってくると大きな笑い声で場をかっさらって、あたかもそれっぽいことを言ってさってく近所のお爺さんなんだよ」
「え?」
 俺はリタを見る。
「だってさっきの聞いたでしょ」
「…… 若い頃の苦労は大変。そして歳をとってからの苦労も大変。だっけ?」
「当たり前でしょ?」
「……確かに」
「悪気はないし目立ちたいわけでもないみたいなんだよ。ただ何て言うか混ざり方が残念っていうか……」
 そっかあ。……下手なんだろうなあ。
 と、扉の開く音がした。
 なんとも言えない理由で一体感が生まれているみんなの視線が一斉に向けられた。
 ニコニコとしたモブ爺が戻ってきた。
「外も心地よいのぉ。夜には吹く風は夜風の如しじゃな。うむ」
 ……うーん、まあ、うーん。
 
 
 
 
 
 笑い声が響き渡る。
 夜も更けてきたがまだまだいつも以上に盛り上がっていた。
 いつも以上にキエールを流し込み浮かれに浮かれていた。
 わかるでしょ?
 だって初めての依頼達成なわけだし。
 浮かれ気分で主役気分でもいいじゃないか。
 多くの視線が俺に注がれ、輪の中心には俺がいた。
 そんな中、
「『トーシ・トーシ』!」
 俺は叫ぶ。
 そして、右手を素早く動かしチィから獲物を奪い取った。
 ゆっくりと確認する。
「うわっ!ダメだ!」
 俺は天を仰ぎ頭を抱えた。
「じゃあチィはこっちを選ぼう」
 すぐさまチィが俺の手から1枚抜き取った。
 そして笑顔になる。
「チィの勝ちね」
 と、テーブルにカードを2枚置いた。
「また負けたのか、カイ」
「お前のギフト、本当にぽんこつだなあ」
 周囲で見ている野次馬が沸いた。
「ぽんこつとか言うな!俺のせっかくのギフトを!初めてのギフトを!」
 今日は主役のはずなのに……。この注目のされたかたは確かに主役ではあるんだけど。
「カイ弱すぎ。コトンボ未満。そんなんで本当に依頼完了できたのかしら?」
 正面に座るチィが酔いながらも冷めた視線を送ってくる。
「カイにこのゲームは高尚すぎてきっと難しいんだよ?」
 リタが肩をすくめた。
 俺はリタとチィとカードゲームをしている。
 まあいわゆる「ババ抜き」ってやつだ。
 しかし俺は一度も勝てず、ひたすら負け続けていた。
「カイ。質問があるんだよ?その『トーシ・トーシ』ってギフト、意味あるの?」
 リタが真面目な顔で訊いてくる。
「……いや、ない……かも……です」
 相変わらず俺の『トーシ・トーシ』は調節がうまくいかない。
 ひかないよう『ばば』を透視しようとするが、目の前に迫ってくるのはチィやリタの先にある壁の木目だ。
「でも、でも、お前らが、お前らがじゃん!お前らがみんなにギフト見せてあげたらとか言ったんじゃないか!」
 あれ?これ気をつけないと涙目になっちゃうやつじゃない?
「リタとチィが珍しいギフトなんだからお披露目したら盛り上がるって言ったんじゃん!」
「確かにそう言ったんだよ?」
「でも、こんなにコトンボ未満だとは思わなかったわ」
「きっとみんなだって、こんなにぽんこつが過ぎるとは思わなかったんだよ?ねーみんなー?」
 リタの一声でまたギャラリーがどっと沸いた。
 でもそのあと、
「まあ、そのうち操れるようになるぜ!」
「頑張れ、カイ!」
 すぐみんなの励ましの言葉も続いた。
 ……うん、いいなあ。
 やっぱりデズリー(この町)好きだな。
 やばい。違う意味で涙目になる。
 と、真っ赤なチャイナドレスの女性がゆさゆさと立派なもの揺らして近づいてきた。
 お?この日人は?
 そうそう、宿屋に入るときに真っ先に目に入ってきたあの女性だ。
 芳醇な身体つきとところどころのスリットで目のやり場に困る。
 どこに視線を置いたら良いのか悩んでしまう。
 いい意味で。
 俺のさまよっている視線とチャイナドレスの女性の視線が合う。
「ふふ。全然勝てないのね、ぽんこつ君は」
 と色っぽい微笑を浮かべた。
「は、はい!ぽんこつの自分は全く勝てないであります!」
 切れ長な二重のまぶたに派手目な化粧。
 右下のまぶたの横のほくろが色っぽさを引き立てている。
 歩くたびに長い赤茶の髪がくるくると揺れた。
 赤いチャイナドレスには金の刺繍。
 紅いふわっとしたファーを肩から下げて腕にまきつけゴージャスな空気を全身にまとっている。
 ……なんていうか豪華できらびやかな(ひと)だな。
「どうしたのさ?ぽんこつ君?」
 いかんいかん、見入ってしまった。
(あたし)は、デトっていうんだ」
 ……デトさんかぁ。
 ぽわぽわとした気分になるが、痛い視線も感じた。
 見渡すと360度全周囲からいろいろな意味のまなざしが集まっていた。
 ……輪の中心には俺がいた。
「それがメガネってやつ?」
「は、はい!そうです!」
「初めてみたわ。で?ぽんこつ君は透視ができるの?」
 デトさんが甘い顔で訊いてきた。
「は、はい!もちろんです!できます、できます、できるであります!できるはずなんです!」
「でも、ゲームは負けっぱなしだったわよ?」
「いや、その、それはその、調整がきかないっていうか、調子が上がらないっていうか」
「そう。じゃあ……もっと調子が上がるよう、やる気が出るようにしてあげるわ。ぽんこつ君」
「え?」
「例えば……そうねぇ、妾の弱い部分ってどこだと思う?」
「え?え?」
「つんつんされるだけで腰からくだけちゃうのよぉ?」
「え?え?え?」
「それはねぇ……服の下で見えないけど、おへそより上にあるんだけど……」
「え?え?え?え?」
「普通の肌よりも濃い色で……人によっては膨らんでいたりするんだけど……わ・か・るぅ?」
 と、俺の目の深くをじっと見つめると、紅い舌で自らの艶々な唇をなめた。
 デトさん、それって……。
 それって、十八禁な部分じゃないんですか?
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