(8/47)頭に何か湧いてるんだよ?

文字数 2,263文字

「隣いいかな」
 彼はそういうと自然な動作で隣に座った。
「ボクはリタっていうんだ。噂の新顔くんだね。名前を訊いても良いかな」
 と、美少年は俺の腕に身体を寄せててきた。
 シャーロットもだけど、ここの人は距離が近いな。
「俺はカイ」
「どうしたんだよ?一人ぼっちで」
「仕事を探してたんだけど……」
 会話をしながらもリタの腕が背中や腿に伸びてくる。
 しかも、なんだかイイ匂いを漂わせて。
「やっぱり。そうじゃないかと思ったんだよ?」
「まあ、掲示板見ていたしな」
「どう?いい仕事あった?」
 うーん?
 会話が重なるごとに、なんだか俺へのさわさわ感がますます強くなってきているような?
「いや、ぱっとは見たんだけどどれも難しそうで」
「ボク、アドバイスとか手助けとかしようか?」
 リタの顔が更に近くなった。
 って。
「ちょ、ちょっと、近い、近い」
 俺は横に身体をずらし距離を作る。
「そう?そんなに近い?ボクは気にしないんだよ?」
 リタはせっかく開けた距離を縮めてきた。
「いやいやいた。結構近いって!」
 俺は更に横に移動し両手を顔の前で合わせ頭を下げた。
「ってか、ごめん!」
「ごめん?」
「初対面で俺のどこに魅力あったのかわからないんだけど、あまりベタベタされるのも……」
「そう?別にいいじゃない。初対面とか細かいことは気にしないんだよ?」
 と、リタがまたにじり寄ってきながら続けた。
「要はフィーリングってやつなんだよ」
「その、本当に申し訳ないんだけど……」
 俺はまた避けながら続ける。
「あのさ、その……」
 なんか言いづらな。
 こほん。
 したくもない咳ばらいを一つ。
「そのさ……、俺、女性か好きなんだ」
「女性が好き?」
「女性専門ていうか」
「女性専門?」
 リタがすごく不思議そうな顔をする。
 あれ?失礼なこと言っている?
 ここではどっちとも大丈夫なのが普通なのだろうか?
 リタが目が目を見開き、
「っていうか。え?あ?あ!あーっ?」
 と、俺を指さし声をあげると、下を向いてしまった。
「えっと……、弱ったな。言葉通りなんだけど」
 下を向いているリタへできるだけ優しい声を出す。
「君は魅力的だと思う。確かに綺麗だと思う。だけど」
 そう、ここで変に期待を持たせる方が残酷だし。
「だけど、リタがどんなに綺麗でも、男性にはときめけないんだ……。ごめん!」
 下を向いたままリタが身体を震わせている。
 俺はひたすら謝るしかない。
「ごめん、ごめん、ごめん!」
 ああ、傷つけるつもりじゃなかったのに。
「せっかくの好意を本当に申し訳ない!」
 やっぱり俺はモテに慣れてないらしい。
 リタが突然立ち上がった。
「な……。ふ……、ふ……、ふざけるなー!」
 握りこぶしを作り、押し殺した声で続ける。
「女専門だから……、女専門だから無理だと?」
 涙を浮かべて下唇を噛んでいる。
「そ、そんなことあるかーっ!」
 と、リタが握り拳を振り上げた。
「いや、そうは言ってもこればっかりは……」
 わたわたと言い訳をする俺。
「決して否定してるのではなく、俺の趣味趣向もあるわけで……」
 ドンッ!
 リタの握りこぶしがテーブルにおろされた。
 そして両手を腰に当てて息をいっぱい吸い込むと、
「ボクは女だーーーーっ!!!」
 見事な仁王立ちのまま一層大きな声で叫んだ。
 声が響き渡った。
 ざわついていたギルドが一瞬静かになる。
「へ?」
 俺は気の抜けた声を出してしまう。
 そして……。
 ギルドに大爆笑がやってきた。
 リタがみるみるうちに赤くなり目に涙を浮かべる。
「へ?じゃないの!間抜け面して!」
「いや、だって」
「ボクのどこをどう見たら男に見えるのさっ?」
 言われて俺は顔を紅潮させて立っているリタを見る。
 耳まで伸びている青いショートカットの髪型。
 ……うん。
 そしてスレンダーな体形。
 ……うん。
 で、今までに気にしてなかった服装を見る。
 ……うん?
 ビスチェ?みたいな上半身にショートパンツという格好。……へそが出ている。
「えっと……、おなか冷えない?」
「そこじゃないだろぉーっ!」
 リタがまたテーブルを叩いた。
「ボクのどこが男に見えるっていうんだよ!」
 もう一度リタの上から下まで視線を動かす。
 ……そりゃあ、まあ、ねえ。
「えっと、見た目?」
「こんな可愛らしくてセクシーな格好をした男がいるか!」
「そんなこと言ったって、男だと思ったんだから仕方ないだろ!」
「あー、そうやって開き直るんだ、女の子を傷つけておいて平気なんだぁ」
「だって、俺謝ったじゃん。ちゃんと『ごめん』って言ったじゃん!」
「何言ってるの!謝ったっていったって『男にはときめかない』って事にでしょ!」
 あれ?
 まあ、そうなのか?
「……そう言われるとそうかも?」
「そうかも?じゃないよ、そうなの!」
 ふむ。確かに。
「……そうかも、というより、そうでした」
「でしょ、でしょ、でしょ!」
「そっか。すまん……」
 俺は片手で拝みながらリタに頭を下げた。
「でも、まあ、リタが惚れた男だ。そこはなにとぞ寛大に。許してやってくれ」
「……何言ってるの?」
「え?」
「頭に何か湧いてるんだよ?」
「な、なにがだよ?」
 リタがため息をつく。
「惚れたとかあるわけないんだよ」
「はい?」
「何でカイなんかに惚れなきゃいけないんだよ?」
「お?え?またまたー。照れ隠し?」
「照れてもいないし、何も隠してない!」
「じゃ、なんで近づいてベタベタしてきたんだよ!」
 リタは息を吸い込むと一気に、
「何か金目のものがないかまさぐっていただけ!」
 と、言い放った。
 
 …………え?…………えーっ?
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