1-3 銀騎研究所

文字数 889文字

蕾生(らいお)の夢の中)


 部屋の隅で蹲っている。

 あれは、俺だ。


 初めて人を傷つけた。理不尽な力で傷つけた。

 納得がいかない。俺のせいじゃない。そんなつもりはなかった。


 怒りと困惑と情けなさ。そんな感情がぐるぐると頭の中で回り続ける。

 嫌だ。なんで俺は違うんだ。どうして俺が悪いんだ。


「ねえ」

 その声は無遠慮に俺の中に入って来た。


「君は悪くないよ」

 本当に?


「これからは僕が考える」

 暗い空が晴れた気がした。


「君の力は僕が使うから、僕が考えて君が動けばいい」

 ──いいのか?


「だから、出ておいでよ。僕には君が──」

 必要なんだ、と笑う姿に。

 心の底から安心した。

 連休中。見学会当日
 ……

(何時だ?)

(窓の外から)

 おーい、ライくーん

 ──やっべ!

(窓を開けて)今行く!

(苦笑)
 バタバタと支度をして出てきた蕾生(らいお)を連れて(はるか)銀騎(しらき)研究所を目指す。


 高校へ向かう道を通り、公立公園を過ぎると、真新しい無機質な道路が顔を出した。

 急に現れた白塗りの大きな鉄の門。

 連休で浮かれる世間とは別世界のような静けさだった。

 ──さむっ
 いい天気なのに寒いの?

 風邪?

 いや、やっぱり寒くはない
 何それ
 笑っていながらも(はるか)の表情は緊張しているようだった。

 二人の間に沈黙が流れる。

 蕾生(らいお)は居心地の悪さを感じた。

 なあ、やっぱり今日……

(やめないか?)

 じゃあ、行こう

 受付あっちみたい

 ──あ、でも具合悪くなったらすぐ言いなよ?

 ああ

 ……わかった

 何の表情も読めない守衛から入館証を受け取った(はるか)蕾生(らいお)


 敷地に一歩踏み入れて驚いた。

 碁盤の目の様に整備された道路、理路整然と建てられた研究棟の数々。

 無機質な道路と真っ白なビルが立ち並ぶ、まるで模型のような景色が広がった。

(違う世界みたいだ……

 また寒くなってきたかも……)

 蕾生(らいお)の感じる不安をよそに、(はるか)は携帯電話の画面を見ている。

 敷地内の地図と現在地を見比べている。

 あっちのちょっと大きい建物で、最初の説明と講演会があるって
 おう……、わかった
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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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