第1話 序章

文字数 368文字

 祥子は過去の記憶の中から蘇らせたいものがある時には、その場面に意識を集中させることで蘇らせることができた。
 平成三〇年 旧姓 鍵井祥子、五十五歳。祥子は一通の封筒をきっかけに、過去を掘り起こすこととなり、これまでの周囲の意味深長だった言動の意味を紐解くことになった。糸がつながる苦しみ、それはまるで真実を受け止められる時期まで待ってあげたのだから、今こそ真正面から対峙しなさいとの命が下されたような、全くストレスのない凪の心に沸々と沸き起こるものだった。
 酷い頭痛に見舞われながら二十一歳の恥じらう年ごろに降り立ち、一つまた一つと紐解かれ、不意打ちを喰らうかのように突然恥辱を浴びせられた。
 その日以来怨嗟の念に縛られ、タール状に穢れゆく心の重みに堪えきれず、もがき苦しみ、一刻も早くその苦しみから解放されたい一心でエッセイを書いた。
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