第87話  お互いのはじめて 1

文字数 4,269文字

 ※


 高校でも屋上の話題なんて聞いた事はない。


 こうやって閉鎖されてりゃ話題もクソも無いからな。


 だが屋上へのドアが開いてしまったのなら、行ってみるしかないという事で俺は白竹さんと一緒に屋上へと出てみた。

すごい雨ですね。めちゃ降ってます
ですね。風も結構きついし

 せっかくの白竹さんと屋上デートなのに、天候がそれを許しはしなかった。


 そう思ってたらすぐ横にプレハブのような小屋が見える。しかも雨宿りできるスペースもあり、とりあえずそっちに場所移動した。


 すると、ここのプレハブ小屋のドアは鍵が掛かっておらず、俺はそのまま侵入すると中はとても薄暗く、色んな物が置かれた物置のようだった。


 昔の文化祭とかで使っていたような、何に使うんだこれ。

 といったような物が部屋中に置いてあり、あまり人が入れるスペースが無い。


 しかもカビ臭いので、すぐに出ようと思ったが、そのまま白竹さんが入って来た。

ちょっと湿っぽい匂いがしますよ
別にいいよっ。ここなら見つからなさそうです

 俺はこんなじめじめした場所は平気だが、白竹さんには似つかわしくないでしょ。


 それなのに彼女は、部屋の端っこに置いてあった机にぴょんとジャンプすると、腰を下ろし足をぶらぶらしはじめた。


 他に座れる場所を探す俺だったが「こっちどうぞ」と少し横にずれてくれると、隣に座るしかない。

ちょっとこんな場所。好きでし
奇遇ですね。俺もこういった廃墟っぽい場所は好きですね

 なんとなく人気がなくて、薄暗い場所は何故か心が落ち着くと言うか……まぁそれは一人だけの時に限るんだけど。

あの……さっきのお話
 自分から切り出した白竹さん。先程までは元気を取り戻したものの、再び暗い顔になってしまった
無理に話さなくてもいいですよ。内緒にする事は内緒にしますし、余計な詮索はしませんから
ううん。言わなくちゃ。せっかくこんな場所まで来てもらったのに

 何だか確固たる意思が垣間見えた。

 そんな風に受け取ると、ここは黙って聞いておこう。

えっと。さっき私。ママって言ったけど……本当なんです。

あの人。私のママなのです

 白竹さんは膝に視線を落としながらそう答えた。



 ですが、その答えは素直に受け入れられない。



 じゃあ喫茶店で働いているオペラママはどうなのだ?

 まぁ確かに口調などは似ているが、容姿は全くの別物だぞ。

このお話。魔樹やママにバレたら……きっと私めっちゃ怒られてしまいます。お、怒られるじゃ済まないかも。だから……

 もしかして。蓮では白竹ママを見た事が無いから?

 

 いや、でもこんな嘘はすぐバレるだろう。

 それなのに何故……

この事は内緒でお願いしますっ!

 おっと、脳内司令部で作戦会議中だったので周りが見えていなかった。


 いつの間にか白竹さんの泣きそうな顔が目の前にまで迫っていた。

分かりました。絶対内緒にしますから。安心してください。

ほら。俺達……ワンダーワールドの住人じゃないですか

 自分でも良い事を言った。

 すると予想通りの元気の良い返事が返ってくる。

ありがとぉ黒澤くん

うんうん。やっぱり美優ちゃんは笑顔が一番です。

俺の為になんて、悩まないでいいんですよ

 調子に乗って小説の台詞を引用する俺であった。

 すると彼女に「小説の台詞でし」と速攻突っ込まれてしまう。

じゃあその後は?
あ、え、えっと……
 口ごもる俺に対し、美優ちゃんはやたらご満悦の顔にレベルアップしていた。

この先に何がろうとも、俺はあなたと共にいますから。

ず、ずっとこの先……ああもう勘弁してくださいっ

 俺に泣きが入った瞬間「あふっ」と笑ってくれる。

 まぁいい。そうやって笑ってくれるなら、このくっさい台詞も本望だ。



 そう自分の中で完結させていると、美優ちゃんは急に「あっ」と言ってからこちらに手を上げる。

今日の黒澤くん。私のこと美優って言ってくれました!
え? あ、そ、そうですね
 そう言われるまで気が付かなかった。

いや、待ってください。あ、あれですよ。

ほら、ママがさ、魔優ちゃんって名乗ってから、美優ちゃんと魔優ちゃんを頭の中で判別しようとした結果……す、すません、馴れ馴れしくて

 今いい訳した通りだ。本当に全然意識してなかったぜ。
いえいえ。美優の方が嬉しいでし
いやいや、馴れ馴れしいし……美優ちゃんで
 これまた万遍の笑みを見せられると、見ている俺も恥ずかしくなりますよ。
じゃあ私も「蓮くん」て、呼んでいい?
もちろんですよ。美優ちゃんならどんな呼び方でも構いませんよ
蓮くん
は、はい。あっ……ちょっと恥ずかしいっすね
 何一人で照れてんだ俺は。

 こんな顔をじっと見られたくないので即座に反撃する。

美優ちゃん
あいっ!

 そんなやり取りが五回ほど続いていた。

 以前、同人誌を買いに行って、二人で謝り倒していたあのシーンが蘇るようだ。

あの……苗字さんから名前になって……何となく関係がレベルアップしたような気がするんです!
そ、そう! それですよ!
あぁい~~!
 むっちゃ元気な返事が返ってくると、お互い笑いあうのだった。


 ※


 そこから美優ちゃんはテンションを低下させずに、落ち着いた口調でママの事を話してくれた。

でも美優ちゃん。あの人は本当にお母さんなんですか?

そのわりには美優ちゃんとソックリすぎて……


彼女本人も言ってましたけど、双子の妹のほうがシックリくるというか。

ううん。表向きはそうなってるけど……

本当に、ママなのです。

 う~ん別に、妹だよ。って言ってもらっても差し支えないと思うんだが、

 どうやら美優ちゃんは「俺にあまり嘘は付きたくない」と言ってくれた。

とにかくママは、何か理由をこじつけて学校に遊びに来たりするのが大好きなのでし。

今日……お弁当を忘れたのに気がついて、もしかして来るかもしれないと思ったら、すぐスマホに連絡来ちゃったから

 結構ママも面白いところがあるんですね。子供達の学校生活でも覗きたかったのだろうか。

 

 というか。高校の娘と瓜二つのお母さんって……

 

だけどね。今日は……蓮くんの話を聞く限り、今回は凄く大人しいというかしょれが不思議なのです。

今までだったらもっと暴れたり、むちゃくちゃするんだけど……だから魔樹も私も怖くって

 無茶苦茶って……一体どんなアクションなのだろうか。

 気になるけど、ここは彼女の聞き手に回っておこう。

だけどね。無茶苦茶するって言っても……それはいつも私の為だったり……するのです
 ん? どういうことだろう。


 俺が顔色を変えたのが分かったのか、美優ちゃんは少し落ち込みながらゆっくりと口を開いた。

中学校。私……あんまり出席できなくて、人と上手く……話せなくて。


それで色々あって、その……ママが……

 色々あって。この部分がやたら引っかかる。

 美優ちゃんは何か、中学校の時につらい時期があったのかもしれない。


 俺と一緒ですね。

 中学時代はまさに暗黒時代でしたから。

 

ごめんなさい。説明が上手くできなくて、実は家族以外とこうやって話すのって、殆ど初体験に近い。でして……

いえ。全然大丈夫ですよ。

ちゃんと理解できますし、俺だって中学校の時は殆ど教室に行けませんでしたよ

蓮くんもですか?
そうですよ。中学三年の頃は殆ど……職員室の隣の個室で勉強してましたから
ど、どうして? そうなったのですか?
 俺はう~んと唸りながら、どこまで説明して良いか考えていた。
あ、いいです。言い難かったら。ごめんなさい
いえ。ちゃんと言います。美優ちゃんだって色々教えてくれたし

 自分の黒歴史っぽい話って、美優ちゃんだって告白するのに勇気がいっただろう。


 そっちが誠意を示しているのに、俺だけ喋らないなんて情けない。

中学校三年まではわりと上手く行ってたんです。

だけど……色々と友達とケンカしちゃってて。思いっきりハブられちゃいまして……

思いっきり黒歴史です

 すると美優ちゃんは「今の蓮くんからは想像できないでし」と言われてしまう。


 まぁ確かに、高校からはどちらかというと平和主義ですし。

でも蓮くんは……何か事情があったんでしょう? 私はそう思いました

美優ちゃん……

ありがとう。そう言ってくれると嬉しいです

 本当に嬉しかった。


 なんというか……事情を全部話した訳じゃないのに、味方でいてくれるというか、賛同してくれる人というのは、本当にありがたいし心強く感じるのだった。


 美優ちゃんは前から……俺のヘルプというか、困ってるとすぐに気付いてくれる。そして救いの手を差し伸べてくれる。そんな気がするんだ。

 

 ※

 

 さっきから真面目な話ばかりだからな。ここからは気分を変えて楽しい話でもしましょう。

じゃあ次は明るいお話でもしましょうか
あひっ! そうしましょう
あにょ。言っちゃっていいですか?
どうぞどうぞ。遠慮なく言っちゃってください
 何でもいいですよ。ノリノリで行ってみましょう
実はわたし。こんな場所で……男の方と二人っきりになってめっちゃ緊張してますた! は、初体験です

 ちょ! そんなことを現場の人間に言うのはどうかと思いますよ。

それはあれですか? 俺に襲われる的な可能性を僅かながら持っていたと?

 そう言いながら、両手を上げて美優ちゃんに迫るポーズを取ってみると、目を丸くして驚いてくれる。


は、はいっ! あの。分かりました。
え?

あにょ。私。初めてなんです。

できれば、優しくしていただけると……

ちょ! 何の話?


いあ、あの。じょ、冗談ですよ。

するわけ無いじゃないっすか。

そうなのですか? てっきり襲われてしまうのかと思いました

しませんしませんしません! 

というか俺はそーいう人間じゃないですからね。

 逆に俺が半泣きになる結果になってしまった。


 ちょっと美優ちゃんを驚かそうとしただけなのに……

 襲われるのを真に受けるのはいいけど、簡単に諦めちゃダメっすよ!


 ……この手の冗談を彼女に使うのはやめておこう。なんとなく。

 


っていうか。そんなことしたら魔樹に殺されますよ。

この現場見られただけでも殴られそうだし

 見事に二人っきりだし、授業中サボってるし、周りには人もいない場所で薄暗い部屋で何してるんだって話だ。

あっ! マジでやばくないですか?

長く帰って来なかった事を西部とかにチクられたら。俺、きっと死にます

大丈夫ですよぉ。魔樹が蓮くんを怒ろうとしたら、私がやっつけるのでし!

西部くんもお任せ下さいね。私が上手くいいますのですっ!

 そりゃ頼もしい限りですね。

 ここは美優ちゃんに任せたほうが良さそうだ。

どうせなら、蓮くんともう少しお話したいです。
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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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