第1話

文字数 468文字

出雲に行った時の話。
出雲市から出雲大社の往復には「一畑電車」というローカル線を使った。この電車は一両編成のワンマン電車で出雲市と出雲大社の間はおおよそ一時間で走行する。

出雲大社から出雲市へ帰る時。
左右を田んぼに挟まれた日も暮れ始めて薄暗くなった線路を電車は走っていて、たまに線路に鳥が立ち入っては運転手がクラクションで退かしていた。

窓から畑を焼く匂いが風に乗って車内へ吹き込んできた。蚊取り線香の香りにも似たあの独特な香り。
その香りを吸うとなんだか心が落ち着かなくなった。
畑の焼ける匂い、よく日焼けした高校生達、ほのかに太陽の光の残る薄暗がりの田んぼが広がる風景、電車の走行するガタガタという音と揺れ。
それらが私の心を満たして、何かが溢れて今にも胸を掻きむしりそうだった。
ノスタルジーを感じるような故郷は私にはない。だがその感情はノスタルジー以外の何者でもないと思った。
満足するような悲しいような寂しいような懐かしいような訳のわからない気持ちでいっぱいだった。
出雲市に到着してもまだ胸がいっぱいだった。あの田舎の風景が私を満たしていた。
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