第16話
文字数 2,123文字
『観音様……これでお父さんのミッションが全て終わったのですが、私はこれから何をやるべきなのでしょう?』
『うーん、そうだねえ』
観音様は、しばらく悩んだあと、ある提案をしてくれた。
『音夢が学校を開いてみるのはどうだい?』
『学校なのです?』
私は不思議な顔を浮かべて、観音様に聞き返した。学校というと、一体どの様なことをやるのかな? 近所の子供たちを集めて、仏教を教えたりすればいいのだろうか?
『何でもいいんだよ。例えば、音夢は文章力があるだろう? それを活かして、子供たちに文章を教えてもいいし、仏教を教えたりするのも、もちろん良いことだと思うよ』
なるほど……文章力を活かして、子供に教える。
そうなると、お父さんに許可を取らなければいけないな……。まあ、あのお父さんのことだから、許可なんかすぐに下りそうだけど。
『分かりました、相談してみるのです』
私は部屋で昼寝をしている、お父さんに話しかけた。お父さんは、不機嫌そうな声を上げたが、私の話を聞くと、二つ返事でOKを出してくれた。
『観音様、許可が下りたのです。これで、学校を開く為の準備をしなければいけませんね』
私は早速、自室に簡易式な机を用意して、教室の雰囲気を醸し出す。ホワイトボードなんかも用意しなければならない……。これは大仕事だ。
必要な道具をネットで注文し、翌日には、立派な教室と呼べるものになっていた。
あとは生徒を集めるだけだ。
【子供たちに仏教を教えます】
ホームページに広告を載せて、私は準備を終えた。
結構簡単だったな……。子供に仏教を教えるなんて、楽しみだ。早く生徒が集まるといいんだけれど。
それから、数日もしないうちに、仏教を学びたいという連絡がお寺に入った。
こんなに早くに、生徒ができるなんて思いも寄らなかった。仏教も最近は人気が出ているんだなあ。
『頑張ったねえ、音夢。弥勒と違って、大した甲斐性だ。これなら将来、音夢が仕事で困るなんてことは無さそうだねえ』
観音様に褒められてしまった……。お父さんが、可哀想だと思ったことは内緒なのだ。私は、素直に感謝をしてから、仏教の教室を開く準備を整えた。
毎週土曜日に開かれることになったその教室は、これからどの様な盛り上がりを見せるのだろうか。
土曜の昼下がり、その子供は、お寺に無事に姿を見せてくれた。
「初めまして、美人なお姉ちゃん! 僕の名前は弘 と言います。これから宜しくお願いします!」
その子の年齢を聞くと、十二歳の男の子で、今年から小学生六年生になるらしい。
「こちらこそ、宜しくなのです、弘くん。私は、仏教のお勉強は、そんなに難しく教えるつもりはないから、気楽にしていてね」
「はーい」
男の子は安心したのか、それまで正座だった足を崩して、深呼吸を一回した。
「では第一回、仏教スクールを開くのです。弘くんは、前にあるホワイトボードに注目してくださいね」
私は、ボードマーカーで、ホワイトボードにピラミッドを描いていった。
「今日のところは、六道輪廻 を教えていくのです。弘くんは輪廻ということを聞いたことはあるのです?」
「うーんと、分からない……」
「仏教では生まれ変わることを輪廻と言うのですが、人間は無限に生まれ変わりを繰り返しているという意味なのです」
「生まれ変わり……と言うと、来世のこと?」
「すごい! 来世のことを知っているのです。そう、人間は生まれ変わると、天人になったり、動物になったりして、永遠にその生を繰り返しているということなのです」
「え! 動物になるなんて、僕いやだよ」
「そうだね、良いことをして生を終えた人間は、天に生まれ変わることができるし、逆に悪いことをしてしまった人間は、動物になったりするんだね。このことは怖いことかも知れないけれど、それが大自然の摂理 なのです。でもね、仏教というのは、それらを回避しようという教えなんだ」
「仏教を学ぶと、来世で動物にならなくてもいいの?」
弘くんは、少し安心したのか、私の目を見つめてきた。
「そういうこと! つまりね、仏教を学ぶことは、それらの原因を無くして、結果を変えるということなんだ。これを『因果 の法則』というのだけれど、これは、難しいからまた今度教えていくのですよ」
「うん……いんが?」
弘くんは、必死でノートにメモを取っていたが、難しい漢字が出て諦めたのか、ペンを持つ手を離した。
「八の字を横にすると∞という記号ができるよね。これが六道輪廻。ずっと生まれ変わりを繰り返して、永遠にそこから逃れられないという教えのことなのです」
すると、弘くんは質問してきた。
「それを作ったのは誰なの?」
「そうだね、お悟りを開いた一人のとっても偉い僧侶がこの世界を発見なされたのです。その人物が、地上ではお釈迦さまと呼ばれているんだよ」
「なるほど……」
「少し休憩しましょうか。ジュースを持ってくるね。また十分後に授業を再開するよ!」
「はい!」
初めてだらけのことで、六道輪廻のお話を子供相手にどうすればいいか、迷っていたけれど、弘くんとは上手くコミュニケーションは取れている様だ。
私は初めて開いた、学校の独特な緊張感を、ジュースを飲んで、ほぐしていた。
『うーん、そうだねえ』
観音様は、しばらく悩んだあと、ある提案をしてくれた。
『音夢が学校を開いてみるのはどうだい?』
『学校なのです?』
私は不思議な顔を浮かべて、観音様に聞き返した。学校というと、一体どの様なことをやるのかな? 近所の子供たちを集めて、仏教を教えたりすればいいのだろうか?
『何でもいいんだよ。例えば、音夢は文章力があるだろう? それを活かして、子供たちに文章を教えてもいいし、仏教を教えたりするのも、もちろん良いことだと思うよ』
なるほど……文章力を活かして、子供に教える。
そうなると、お父さんに許可を取らなければいけないな……。まあ、あのお父さんのことだから、許可なんかすぐに下りそうだけど。
『分かりました、相談してみるのです』
私は部屋で昼寝をしている、お父さんに話しかけた。お父さんは、不機嫌そうな声を上げたが、私の話を聞くと、二つ返事でOKを出してくれた。
『観音様、許可が下りたのです。これで、学校を開く為の準備をしなければいけませんね』
私は早速、自室に簡易式な机を用意して、教室の雰囲気を醸し出す。ホワイトボードなんかも用意しなければならない……。これは大仕事だ。
必要な道具をネットで注文し、翌日には、立派な教室と呼べるものになっていた。
あとは生徒を集めるだけだ。
【子供たちに仏教を教えます】
ホームページに広告を載せて、私は準備を終えた。
結構簡単だったな……。子供に仏教を教えるなんて、楽しみだ。早く生徒が集まるといいんだけれど。
それから、数日もしないうちに、仏教を学びたいという連絡がお寺に入った。
こんなに早くに、生徒ができるなんて思いも寄らなかった。仏教も最近は人気が出ているんだなあ。
『頑張ったねえ、音夢。弥勒と違って、大した甲斐性だ。これなら将来、音夢が仕事で困るなんてことは無さそうだねえ』
観音様に褒められてしまった……。お父さんが、可哀想だと思ったことは内緒なのだ。私は、素直に感謝をしてから、仏教の教室を開く準備を整えた。
毎週土曜日に開かれることになったその教室は、これからどの様な盛り上がりを見せるのだろうか。
土曜の昼下がり、その子供は、お寺に無事に姿を見せてくれた。
「初めまして、美人なお姉ちゃん! 僕の名前は
その子の年齢を聞くと、十二歳の男の子で、今年から小学生六年生になるらしい。
「こちらこそ、宜しくなのです、弘くん。私は、仏教のお勉強は、そんなに難しく教えるつもりはないから、気楽にしていてね」
「はーい」
男の子は安心したのか、それまで正座だった足を崩して、深呼吸を一回した。
「では第一回、仏教スクールを開くのです。弘くんは、前にあるホワイトボードに注目してくださいね」
私は、ボードマーカーで、ホワイトボードにピラミッドを描いていった。
「今日のところは、
「うーんと、分からない……」
「仏教では生まれ変わることを輪廻と言うのですが、人間は無限に生まれ変わりを繰り返しているという意味なのです」
「生まれ変わり……と言うと、来世のこと?」
「すごい! 来世のことを知っているのです。そう、人間は生まれ変わると、天人になったり、動物になったりして、永遠にその生を繰り返しているということなのです」
「え! 動物になるなんて、僕いやだよ」
「そうだね、良いことをして生を終えた人間は、天に生まれ変わることができるし、逆に悪いことをしてしまった人間は、動物になったりするんだね。このことは怖いことかも知れないけれど、それが大自然の
「仏教を学ぶと、来世で動物にならなくてもいいの?」
弘くんは、少し安心したのか、私の目を見つめてきた。
「そういうこと! つまりね、仏教を学ぶことは、それらの原因を無くして、結果を変えるということなんだ。これを『
「うん……いんが?」
弘くんは、必死でノートにメモを取っていたが、難しい漢字が出て諦めたのか、ペンを持つ手を離した。
「八の字を横にすると∞という記号ができるよね。これが六道輪廻。ずっと生まれ変わりを繰り返して、永遠にそこから逃れられないという教えのことなのです」
すると、弘くんは質問してきた。
「それを作ったのは誰なの?」
「そうだね、お悟りを開いた一人のとっても偉い僧侶がこの世界を発見なされたのです。その人物が、地上ではお釈迦さまと呼ばれているんだよ」
「なるほど……」
「少し休憩しましょうか。ジュースを持ってくるね。また十分後に授業を再開するよ!」
「はい!」
初めてだらけのことで、六道輪廻のお話を子供相手にどうすればいいか、迷っていたけれど、弘くんとは上手くコミュニケーションは取れている様だ。
私は初めて開いた、学校の独特な緊張感を、ジュースを飲んで、ほぐしていた。