第5話 初めての夜

文字数 2,504文字

「ナオさんて、不思議な人だ。色っぽい大人の女なのに、あどけなくもあって。振り幅すごすぎ。俺、正直、翻弄されてます。けど、俺のキスにこんなに感じてくれて嬉しい。もっと色んな顔を見てみたい」
 寝室の入り口で振り返り、僕と手を繋いでいる彼女を眺める。

「佑哉くん、聞き上手だよね。恥ずかしいこと色々話しちゃったけど、すっと受け入れてくれて嬉しかった。だからかな? 佑哉くんには、素直になれるみたい。こんなに気持ち良くて私も驚いてる」
 彼女は、甘えるように僕の肩に顔を擦り付け、可愛いことを言ってくれた。

 服と下着を取り去り、優しく肩を押してベッドに押し倒した。室内の電気は消したが、カーテン越しに差し込んでくる街の灯りに、白い肌が照らされている。生まれたままの姿を目で堪能する。

「綺麗だ」

 僕は、自分の服を脱ぐ僅かな時間すらも惜しんで肌を寄せ合い、体温を共有した。
 彼女の柔らかい肌に唇を這わせ、吸い上げ、噛み付き、舐め回した。彼女の息遣いや表情、身体の反応を窺う。女の人と抱き合うって、こんなに五感をフル稼働するものだったっけ。

「ナオさん、可愛い」
 愛撫に全身で応える素直な彼女に、僕は何度も囁いた。

 もっと、快感に喘がせて、いやらしいキスをせがませたい。切羽詰まった声で啼かせたい。僕の雄の本能がむくむくと首をもたげて大きく育ちつつあるのを感じた。

 あぁ、そうだ。この感じ。自分の愛器のポテンシャルを使い切って、一番良い音を引き出そうとする時の「化学反応」としか言いようがない、あの集中に似てる。

 彼女の脚の間に、指を忍び込ませた。そこは、もう潤っていた。唇の輪郭を辿るように撫でてから、そっと左右に押し開き、小さな突起を探し当てた。最初は不規則に。そして、そこが少し膨らんで固くなってきたら、小刻みに一定のテンポで刺激する。僕の肩に乗せられた彼女の両手が、そわそわと落ち着きなく動き出し、吐息が、次第に甘く熱くなってきた。

「……このまましてもらってたら、すぐイっちゃいそう」
 彼女が、僕の耳を舐め、荒い息の中で打ち明けた。

「いいよ、一回イって」
 僕が胸の頂を吸い上げながら答えると、彼女は、目を閉じて快感に集中し始めた。胸の頂に軽く歯を立てると、喘ぎ声が漏れ、彼女の爪先が奇妙に捻じれる。僕の肩を掴む手が汗ばみ、力が入ってきた。刺激するリズムを少し早めた。

「あぁっ」
 彼女が声を上げるが否や、呼吸が止まり、爪先をぴんと伸ばし、身体が硬直した。

 その数秒後、大きく息を吐いた彼女の身体が弛緩したのを見届けると、畳み掛けるように、今度は、内部に指を入れた。一度達して中も十分潤ったのか、彼女のそこは、すんなり僕の指を受け入れた。ギターの弦を押さえるように、内壁を丁寧に押し、彼女が感じる場所を探る。入り口近くに膨らんだ箇所を探り当て、そこを何度か、叩くように押してみた。
「ここ?」
 僕が尋ねると、彼女が無言でコクコクと頷く。その一帯の凹凸を伸ばすように指の腹をしっかり擦り付けると、内壁がひくひくと動き、彼女が切なげに喘いだ。

 奥から、更に熱く濡れてきた。花の蜜を追い求める虫のように、僕の指は、更に彼女の深部へと引き寄せられた。感触が少し他とは違う場所がある。深い溜息と共に、彼女が僕の首に腕を回して、しがみついてきた。いつの間にか、首筋や胸元から、腕まで、しっとり肌が湿るほど汗をかいていて、二人の肌がぴたりと密着する。

「ここも気持ち良いの?」
 そう尋ねると、彼女は泣きそうな表情で頷いた。

「もっと」
 切なげな声で、彼女は強請った。

「すごい奥だから、指だと、届くかギリギリで、うまく触れないんだ。後でいっぱいしてあげる」

 この熱く湿った狭い場所に入り込む自分自身を想像すると、既に張り詰めているのに、更に滾る。

 僕は、軽い緊張と興奮で乾いた唇を舐めた。

「佑哉くん、今、急に男の顔になった」
 彼女が艶かしく囁いた。

「えっ、やだな。じゃあ今までは何だったの?」
 僕が笑いながら聞き返すと、

「これまでは、失恋した女友達を慰める優しい男友達の顔。でも、今は、獰猛に獲物を食らおうとする肉食獣みたいな目の色してる。口の片方だけ釣り上げて、ニヤって。セクシーでドキドキする」
 彼女は、僕の手首から肩まで、指先で擽るようにいやらしく撫で上げた。

彼女の愛撫が気持ち良くて、僕は大きく溜息をついた。

「そういうナオさんは、草食動物には見えないよ。しなやかな雌豹みたいだ。黙って俺に食われてなんかくれないでしょ」
 冗談めかして、彼女の鎖骨を甘噛みした。彼女は、少し挑むような眼差しで、フフフと含み笑いしながら、今度は僕の背中を、尻から肩まで撫で上げた。

「挑戦的だなぁ。ホントに食べちゃうよ?」
 再び大きな溜息をつきながら彼女を見詰めた。

「佑哉くんにそう言わせたくて、わざとやってるんだもん」
 彼女は、澄まして答えた。

 手早くゴムを付け、僕は、彼女の中に自分自身を埋めていった。全体を収めきったところで、お互いに深い快感の溜息を洩らした。
さっき指先で探り当てた場所を思い出すように動く。最初は、焦らすようにゆっくり抜き差しし、彼女が気持ち良くなってきたら、強く突いて、絶頂へと追い込んでいく。淑やかな甘ったるい溜息が、次第に切なさを帯びる。

「……中が、すごく熱くなってきた」
 僕が彼女に口付けると、うっとり蕩けそうなのに辛そうな、女の表情で、噛み付くような激しいキスを返してきた。

「あぁ……。も、お、だめ、かも。い、いきそう」
 すっかり息があがって、彼女の訴えは途切れ途切れになっている。

「いいよ、おいで」
 僕が呼び掛けたら、複雑にうねり続けていた彼女の内側が、僕を離すまいと、ぎゅっと締め付けた。言葉にならない、か細い悲鳴をあげ、彼女は僕の背中に爪を立てた。怯えてしがみついてきた仔猫みたいだ、と思いながら、僕も一緒に達した。

「はぁ……。すごかった……、すごい気持ち良かった……」

「ん……、俺も……。すごい良かった……」

 僕たちは、荒い息の中で思わず零れ落ちた言葉に、顔を見合わせて笑い、そして唇を重ねた。甘いピロートークが続く。
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