第13話 恋の季節

エピソード文字数 993文字

その日の午後、夫婦の猫は、軒下でギャーギャー叫んでいた。どうやらいまは、恋の季節らしい。
「微笑ましいわねえ」
 トメは、うっとりとしている。小鳥遊は、顔を赤らめた。
 しばらくすると、軒下から小さな子猫が二匹、現れた。白猫と黒猫で、両方ともシッポが二つある。しかも両親とおなじように、二本足で立っていた。
 母猫あやかしは、この子猫に厳しい訓練をはじめた。コソコソ駆け回る、ネズミを獲る訓練である。灰色の小さなネズミが部屋をちょろりと出ると、たちまち子猫がふたり、追いかけ回し始める。
「がんばれ、がんばれ!」
 トメは、声を大きくして応援した。二匹がネズミにとびかかり、その首根っこをおさえて血みどろにする。成果をみせに、トメのところまでやってきた。
 トメは血みどろになりながらも、その成果を褒めていた。
「なーお」
 ネズミを獲ってきた子猫は、自慢そうである。そして、空をふうわりと浮かんで、くるり、くるりと回転していた。

 トメは、我を忘れて見つめている。
 黒猫あやかしのほうは、少し離れたところの焼き鳥屋の手伝いをしていた。あやかしであるから、身長は思いのまま。ネギを切り、串に刺すのは人間の大きさになった黒猫あやかしの仕事だ。焼き鳥屋の主は、
「いやー、助かるぜ」
 感謝感激であった。
「じゃあ、ちょっくら酒の仕入れに行ってくるからよ、店番たのむわ」

 主が屋台を出て行った。しばらくすると、酔っ払いがやってきた。
「おやじ~。酒! 酒をくれ~」
 屋台の向こうで、黒猫あやかしが酒を用意し始める。酔っ払いはしゃっくりをして言った。
「おやじ、ずいぶん毛深くなったなぁ! おれなんか、ここンところ、丸くハゲができてるんだよな。どこか霊験あらたかな神社を紹介してくれよぉ」
 酔っ払いは、頭のうしろを示してから、止まり木につっぷした。
 酒がとくとくと注がれ、酔っ払いは相手を顔だけ上げてじっくり見た。
「おやじ、いつからそんなに目が大きくなったんだ?」

「なーお」
「いつから、猫が好きになったんだ?」
「なーお」
「いつから……ぎゃっ!」
 酔っ払いは、ニタリと笑う黒猫あやかしの顔に気づき、一度に酔いがさめてしまった。
「ばけものだ~!」
「なーお?」
 酔っ払いは、腰を抜かして逃げ出してしまった。黒猫あやかしは、ちょっとばかり、傷ついたようすになった。
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