第2話
文字数 1,250文字
ありがとうございました。
僕がよく通うコンビニの店員はいつでも程よく愛想がなくて、それが自分の存在のどうでもよさをより証明してしまっている気がする。むしゃくしゃして、レシートを丸めてコートのポケットにしまう。ふられたんだし、なんでもいっかもう。自動ドアのがががと音を立てて開く音と同時に冬が抱擁してくる。肌の表面をなんでもない感じで痛めつけるように、空気があっという間に僕を包む。なんとなく甘くない気がするミルクティーをゆっくり飲みながら、鵠沼海岸をおろおろ歩く。珍しくあまり人がいない。いつもは見向きもしない砂浜を歩いてみたら、足をとられて、呆気なく転んで、途轍もない虚しさが止まらなくなってきた。
そのままやわらかい砂の母性に身を委ねて寝転がると、海には赤い人がいた。血? 急激に汗が噴き出してくる。飛び起きてよく見てみると、赤い服を着たまま海にからだを預けた女の子がぷかりと浮かんでいた。瞬きして、目を擦っても、まだいた。鼓動が大胆にのたうち回って、また不安な予感を想起させる。
「ちょっと! 」
砂まみれになったまま呼びかける僕に女の子はゆっくりと目線を向ける。
「……なんですか」
「寒くないんですか? ていうか、何してるんですか」
「なんでも」
なんでもってなんだよ。安堵と苛々が混ざって渦になってきた僕は起き上がってそのまま波に向かって歩き出した。
「何してんの、変な人」
不服そうな顔をした変な人の手を引く。砂浜まで一緒に歩くと、女の子は突然手を振り払った。僕は砂浜に倒れて、さっきよりもっとひどい砂まみれになった。こんなに惨めなこともなかなかないけれど、僕は女の子になにかいう気にもなれなかった。
「なんで、私のところにきたの」
なぜなのか、そんなことは僕にだってわからない。
「あ、寒そうだったから」
そんなんで私を止めたの? はあ。……ため息が耳に痛い。僕だって、そんなふうに言われるならあなたの元にはいかなかったけどね。そう思ったって口に出す勇気なんてさらさらないから、体の内側に止めておくことしかできない。あーあ。こんな人に話しかけてないで、もっと木田さんにも話しかけるとかすれば良かったのかなあ。こうやって言わないでおこうとかやめておこうとか、そういう積み重ねで僕ってできているんだろうな。あ、もうやだなあ、もう。
「かわいそ、高校生の泣き顔なんか滅多に見ないから、逆に新鮮」
見世物でもないのに、僕は顔を覆うことすら憚られるような気がしてそのまま海を眺めて泣きじゃくった。心臓が痛くて、体があつい。でも空気は冷たくて寒い。なんでなんだっけ。僕はなんで、こんなことで泣いたり、意気地なしで、気持ち悪い。あつい。つめたい。つめた、?
頬が急に凍てつくような感覚に襲われたのは、赤い女の子のせいだった。彼女の小さな手が僕の顔を触っていたのだ。
「気に入ったな、あんたのこと。私のモデルになってよ」
赤い女の子は中原玲というらしい。僕がその日彼女について知ることができたのは、それだけだった。
僕がよく通うコンビニの店員はいつでも程よく愛想がなくて、それが自分の存在のどうでもよさをより証明してしまっている気がする。むしゃくしゃして、レシートを丸めてコートのポケットにしまう。ふられたんだし、なんでもいっかもう。自動ドアのがががと音を立てて開く音と同時に冬が抱擁してくる。肌の表面をなんでもない感じで痛めつけるように、空気があっという間に僕を包む。なんとなく甘くない気がするミルクティーをゆっくり飲みながら、鵠沼海岸をおろおろ歩く。珍しくあまり人がいない。いつもは見向きもしない砂浜を歩いてみたら、足をとられて、呆気なく転んで、途轍もない虚しさが止まらなくなってきた。
そのままやわらかい砂の母性に身を委ねて寝転がると、海には赤い人がいた。血? 急激に汗が噴き出してくる。飛び起きてよく見てみると、赤い服を着たまま海にからだを預けた女の子がぷかりと浮かんでいた。瞬きして、目を擦っても、まだいた。鼓動が大胆にのたうち回って、また不安な予感を想起させる。
「ちょっと! 」
砂まみれになったまま呼びかける僕に女の子はゆっくりと目線を向ける。
「……なんですか」
「寒くないんですか? ていうか、何してるんですか」
「なんでも」
なんでもってなんだよ。安堵と苛々が混ざって渦になってきた僕は起き上がってそのまま波に向かって歩き出した。
「何してんの、変な人」
不服そうな顔をした変な人の手を引く。砂浜まで一緒に歩くと、女の子は突然手を振り払った。僕は砂浜に倒れて、さっきよりもっとひどい砂まみれになった。こんなに惨めなこともなかなかないけれど、僕は女の子になにかいう気にもなれなかった。
「なんで、私のところにきたの」
なぜなのか、そんなことは僕にだってわからない。
「あ、寒そうだったから」
そんなんで私を止めたの? はあ。……ため息が耳に痛い。僕だって、そんなふうに言われるならあなたの元にはいかなかったけどね。そう思ったって口に出す勇気なんてさらさらないから、体の内側に止めておくことしかできない。あーあ。こんな人に話しかけてないで、もっと木田さんにも話しかけるとかすれば良かったのかなあ。こうやって言わないでおこうとかやめておこうとか、そういう積み重ねで僕ってできているんだろうな。あ、もうやだなあ、もう。
「かわいそ、高校生の泣き顔なんか滅多に見ないから、逆に新鮮」
見世物でもないのに、僕は顔を覆うことすら憚られるような気がしてそのまま海を眺めて泣きじゃくった。心臓が痛くて、体があつい。でも空気は冷たくて寒い。なんでなんだっけ。僕はなんで、こんなことで泣いたり、意気地なしで、気持ち悪い。あつい。つめたい。つめた、?
頬が急に凍てつくような感覚に襲われたのは、赤い女の子のせいだった。彼女の小さな手が僕の顔を触っていたのだ。
「気に入ったな、あんたのこと。私のモデルになってよ」
赤い女の子は中原玲というらしい。僕がその日彼女について知ることができたのは、それだけだった。