四 瓢箪から駒
文字数 2,067文字
翌日、土曜日。(五月最後の週末、土曜)
智子の家で朝食後、私は智子とともにダイニングキッチンで食器を洗いながら話した。
市役所に不受理申出を行った際、係員が不受理申出のデータ入力するのを、私と智子は確認した。さらに、不受理申出を受理した証明書も発行してもらった。
これで、安西隆太郎の息がかかった市役所の職員が居たとしても、不受理申出を改ざんできない。
「ねえ、うちの会社は安西隆太郎と関係ないのかな?」
私はそう智子に話して、安西隆を採用しなかった青木人事課長を思い、上武繊維(株)が安西隆太郎と無関係なのを確信していた。
「安西隆を不採用にしたんだ。無関係だろう。安西隆太郎と敵対してるのかも知れないな。
たしか、上武繊維(株)は次期の市長選に畑政夫を推してるはずだ。
畑政夫はM大の政治経済の教授だといってたな・・・」
「誰がそういったの?」
智子は市政に無関心だと思っていた私に、智子の言葉はちょっとした驚きだった。
「上武繊維(株)が市長選に畑政夫を推してるのを話したのは、阿部総務部長だ。
安西隆が不採用になったあと、総務部長がそれとなく、上武繊維(株)が安西隆太郎と対立しているのを話してたよ」
「それなら、どうして安西隆の中途採用面接をしたの?」
「表向き、安西隆太郎の政治的圧力を受入れたと見せかけて、上武繊維(株)と安西隆太郎の対立を避けるためだったらしいよ。
安西隆を不採用にしたあとで青木人事課長がふさぎこんでただろう。あれ、おそらく安西隆太郎から、圧力めいた嫌みをいわれたんだと思う・・・」
智子が唇を噛みしめたような顔をした。なんか、悔しそうな感じだ。
「建て前と本音のちがいか・・・。
智子は、総務部長から畑政夫がM大の政治経済の教授だと聞いたの?」
「畑政夫のことは、父がくわしい。加代の父さんも知ってるはずだよ」
「どうしてなの?」
「二人とも、市長候補の畑政夫の後援会員だし、智子の父さんもあたしの父も、高校と大学で畑政夫と同期だといってた」
「知らなかったな・・・」
私は父の出身校が、大淵や田村と同じM大とは聞いていたが、くわしいことを知らなかった。そういえば田村は大学院の二年になっているはずだ・・・。
「さあ、洗い終わった。なに、飲む?コーヒーか?お茶か?それともジュースか?」
「そしたら、コーヒーだね」
智子の家はレストランをしている。コーヒーがうまい。
私はキッチンテーブルにコーヒーカップを四つ用意しながら話す。
「安西隆太郎は市長候補の畑政夫を潰そうとしてるんじゃないのかな。その手始めが、後援会だよ。
上武繊維(株)、相生縫製(株)、松本繊維加工(株)は、すでに安西隆のことで安西隆太郎と対立してる。そのことを考えても、上武繊維(株)、相生縫製(株)は畑政夫の後援企業だよね?」
智子が思いだしたようにいう。
「ああ、松本繊維加工(株)も畑政夫の後援企業だ。生産部の山田課長が父を訪ねてきて、畑政夫の後援会のことを話してた。山田さんも父たちと同期だったらしい」
智子はコーヒーをドリップしている。
「地域ブランドを作るなら、後援企業でまとまれば良いのか・・・。
それにしても、地元の金融機関と建設業界が安西隆太郎の側だと面倒だな・・・」
「そうでもないかも知れない。安西隆太郎に対立する金融機関や建設企業はあるはずだ。父に話してみるよ。
さあ、コーヒーができた。父たちを呼ぶ・・・。
父さん、母さん。コーヒーがはいったよ!」
智子がダイニングキッチンに両親を呼んだ。
「実はね、加代が・・・」
キッチンに現れた両親に、智子はかいつまんで説明した。
すると、智子の父は、
「公にはできないが、二人の推測どおり、市内の企業は畑政夫派と安西派に分れてる。
だが、企業票が全てどちらかへ流れる訳じゃない。経営者が安西隆太郎を推しても、社員が安西隆太郎を推すとはかぎらないからね。その逆もありうる。
畑政夫派の金融機関も建設企業もある。まだおおやけに畑政夫派だとはいえないから、相生縫製(株)救済に名乗りを上げられない。
地域ブランドを作るのは画期的なアイデアだ。畑政夫の後援企業でまとまれば事はかんたんだ・・・・」
といって何か考えるようにコーヒーカップの中を見ている。
「相生縫製(株)の融資先が資金を回収したら、畑政夫派の金融機関に協力を頼むのは・・・、選挙が絡むから、無理か・・・」
智子が唇を噛みしめた。
「まあ、コーヒーを飲もう。冷めてしまう・・・」
智子の父はそれ以上何も話さなかった。
だが、コーヒーを飲みおえると、智子の父が意を決していった。
「地域ブランドを作ろう!仲間を非常召集して、対策を考えよう・・・」
智子の父は、私の父と松本繊維加工(株)の山田課長、上武繊維(株)の阿部総務部長に、急いで集るよう電話した。
智子の父に寄れば、阿部総務部長も智子の父や私の父と同期だといった。
市長候補の畑政夫はM大の政治経済学部の教授だ。私は、M大の同窓生たちが畑政夫を後援しているのを、このときはっきり理解した。
智子の家で朝食後、私は智子とともにダイニングキッチンで食器を洗いながら話した。
市役所に不受理申出を行った際、係員が不受理申出のデータ入力するのを、私と智子は確認した。さらに、不受理申出を受理した証明書も発行してもらった。
これで、安西隆太郎の息がかかった市役所の職員が居たとしても、不受理申出を改ざんできない。
「ねえ、うちの会社は安西隆太郎と関係ないのかな?」
私はそう智子に話して、安西隆を採用しなかった青木人事課長を思い、上武繊維(株)が安西隆太郎と無関係なのを確信していた。
「安西隆を不採用にしたんだ。無関係だろう。安西隆太郎と敵対してるのかも知れないな。
たしか、上武繊維(株)は次期の市長選に畑政夫を推してるはずだ。
畑政夫はM大の政治経済の教授だといってたな・・・」
「誰がそういったの?」
智子は市政に無関心だと思っていた私に、智子の言葉はちょっとした驚きだった。
「上武繊維(株)が市長選に畑政夫を推してるのを話したのは、阿部総務部長だ。
安西隆が不採用になったあと、総務部長がそれとなく、上武繊維(株)が安西隆太郎と対立しているのを話してたよ」
「それなら、どうして安西隆の中途採用面接をしたの?」
「表向き、安西隆太郎の政治的圧力を受入れたと見せかけて、上武繊維(株)と安西隆太郎の対立を避けるためだったらしいよ。
安西隆を不採用にしたあとで青木人事課長がふさぎこんでただろう。あれ、おそらく安西隆太郎から、圧力めいた嫌みをいわれたんだと思う・・・」
智子が唇を噛みしめたような顔をした。なんか、悔しそうな感じだ。
「建て前と本音のちがいか・・・。
智子は、総務部長から畑政夫がM大の政治経済の教授だと聞いたの?」
「畑政夫のことは、父がくわしい。加代の父さんも知ってるはずだよ」
「どうしてなの?」
「二人とも、市長候補の畑政夫の後援会員だし、智子の父さんもあたしの父も、高校と大学で畑政夫と同期だといってた」
「知らなかったな・・・」
私は父の出身校が、大淵や田村と同じM大とは聞いていたが、くわしいことを知らなかった。そういえば田村は大学院の二年になっているはずだ・・・。
「さあ、洗い終わった。なに、飲む?コーヒーか?お茶か?それともジュースか?」
「そしたら、コーヒーだね」
智子の家はレストランをしている。コーヒーがうまい。
私はキッチンテーブルにコーヒーカップを四つ用意しながら話す。
「安西隆太郎は市長候補の畑政夫を潰そうとしてるんじゃないのかな。その手始めが、後援会だよ。
上武繊維(株)、相生縫製(株)、松本繊維加工(株)は、すでに安西隆のことで安西隆太郎と対立してる。そのことを考えても、上武繊維(株)、相生縫製(株)は畑政夫の後援企業だよね?」
智子が思いだしたようにいう。
「ああ、松本繊維加工(株)も畑政夫の後援企業だ。生産部の山田課長が父を訪ねてきて、畑政夫の後援会のことを話してた。山田さんも父たちと同期だったらしい」
智子はコーヒーをドリップしている。
「地域ブランドを作るなら、後援企業でまとまれば良いのか・・・。
それにしても、地元の金融機関と建設業界が安西隆太郎の側だと面倒だな・・・」
「そうでもないかも知れない。安西隆太郎に対立する金融機関や建設企業はあるはずだ。父に話してみるよ。
さあ、コーヒーができた。父たちを呼ぶ・・・。
父さん、母さん。コーヒーがはいったよ!」
智子がダイニングキッチンに両親を呼んだ。
「実はね、加代が・・・」
キッチンに現れた両親に、智子はかいつまんで説明した。
すると、智子の父は、
「公にはできないが、二人の推測どおり、市内の企業は畑政夫派と安西派に分れてる。
だが、企業票が全てどちらかへ流れる訳じゃない。経営者が安西隆太郎を推しても、社員が安西隆太郎を推すとはかぎらないからね。その逆もありうる。
畑政夫派の金融機関も建設企業もある。まだおおやけに畑政夫派だとはいえないから、相生縫製(株)救済に名乗りを上げられない。
地域ブランドを作るのは画期的なアイデアだ。畑政夫の後援企業でまとまれば事はかんたんだ・・・・」
といって何か考えるようにコーヒーカップの中を見ている。
「相生縫製(株)の融資先が資金を回収したら、畑政夫派の金融機関に協力を頼むのは・・・、選挙が絡むから、無理か・・・」
智子が唇を噛みしめた。
「まあ、コーヒーを飲もう。冷めてしまう・・・」
智子の父はそれ以上何も話さなかった。
だが、コーヒーを飲みおえると、智子の父が意を決していった。
「地域ブランドを作ろう!仲間を非常召集して、対策を考えよう・・・」
智子の父は、私の父と松本繊維加工(株)の山田課長、上武繊維(株)の阿部総務部長に、急いで集るよう電話した。
智子の父に寄れば、阿部総務部長も智子の父や私の父と同期だといった。
市長候補の畑政夫はM大の政治経済学部の教授だ。私は、M大の同窓生たちが畑政夫を後援しているのを、このときはっきり理解した。