第3話 恩人に冷たい都市

文字数 1,303文字

「別に恩人だと嵩にかかるつもりはないのですよ。魔族との戦いで、たまたま近くを通り、魔族の襲撃が頻繁にあり、困っているという話を聞いて、助力をと思っただけなのですが。」
「それをだな、全く宿すらないと言って、挙げ句のはてに、野宿をするのは許すなどと言いおって、市の奴らは。」
 イシュタルは、いまいましそうに、如何にも不満だという顔で言った。
「まさか。」
 ヨハンが驚いて立ち上がりかけた。
「一応、野宿は避けられましたよ。」
 シンは、ヨハンを宥めるように、穏やかな表情で、イシュタルの後を続けた。
「馬小屋だがな。しかも、その上、なんだ、あのぼりようは。」
 怒りが収まらない、また、思い出したというように、イシュタルは文句を言った。シンが窘めるように見ると、彼女はソッポを向いた。
「まあ、それはともかく、我々は金に困っているわけではないのですが、このように、我々の働きが認められない、誹謗中傷される、疑われるのは、大いに不満です。監視員をつけろと言われ、それを求めると人がいないと言う。」
 シンは、穏やかな話し方ではあったが、かなり不満そうであった。
「どうでしょう。」
 ヨハンが口を開けた。
「私達が、監視員になるということではどうでしょうか?」
「それは大変有り難いが、いいのですか?」
「大したことではありませんよ。評議員の私が言えば、文句は言えますまい。それにですな、甥っ子も、お二人について行きたいと思っておるようですし。」
 彼は、愉快そうに笑った。
「足手まといは嫌だ。」
 イシュタルは、不機嫌状態が続いていた。彼女はヨルンを、汚いものでも見るような視線を向けた。
「ご心配はごもっともですが、私より甥っ子のほうがずっとましかと。お二人に憧れて、お二人のようになりたいと、家業の修行の傍ら、剣や魔法の修行に撃ち込んでおりまして、伯父のひいき目かもしれませんが、この市にいる傭兵の大半より実力があるかと。」
 イシュタルは、まだ疑わしそうな目で見たが、
「それは心強いですな。時に、ずうずうしようで申し訳ないのですが。」
とシンが切り出した。魔族からの戦利品が売れなくて困っているということと明日の戦いででる魔族の死体やえ魔族から得るだろう戦利品を運ぶための人夫を数人雇いたいというのである。
「余っていてと言って、あまりにも足下を見るものですから。」
“そんなことはない。”ヨハンは思った。商人達も彼らと結託しているのだと心の中で叫んだ。。
「分かりました。甥っ子のヨハンにまかせましょう。こいつは、商売の才もなかなかの男ですから。」
 ヨハンは伯父の言葉に頷いた。それを優し気な目で見てから、彼はシンの方を見て、言葉を選ぶように、
「しかし、人夫をというのは…、あくまで老婆心かもしれませんが、今日のことを気に病んで、焦っては…。」
 ヨウは首を横に振った。
「かなりの魔族を今まで殺しましたから、そろそろ、彼らも、それ相応のことをしそうですから。」
 何となく分かるような気がした。
「分かりました。すぐ手配いたしましょう。」
 2人は礼を述べると立ち上がって、収納魔法から、戦利品を出して彼らに引き渡した。そして、彼らはその場を去った。
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