第8話 2人の正体2

文字数 1,768文字

 千年を超える封印から彼女、黒髪の、女としては背の高い女、を解放したのは、奇妙な服を来た若い、わりと背の高い、黒髪の男だった。空腹だと言ったところ、
「これしかないが。」
と言ってポケットから取り出した小さな箱を開け、さらに紙らしきものに包まれたものを取りだして、それを割いて中身の長方形の白い固まりを出して、渡してくれた。チーズの香りのする、それは食べてみると、甘い菓子のようなものだった。後で、かろりーめいとという名の食べ物だと、その男は彼女に教えた。
「お前のことを教えてくれ。」
 その男の言葉で、自分でも驚くほど、詳しく、自分が殺戮と破壊の魔女と言われた過去、さらにその前の過去、呼ばれるに至までの、を話してしまった。封印されている間にも、何となく、外界の様子の情報が多少は流れ込んで来ていたが、そのことも話した。封印を解いた時に、彼女が助けられた時に、彼が望んだ故に、彼女は彼のものになる契約が成立していたのだ。
「これから如何するつもりなのだ?」
「私も多少情報を持っているが、まだ、あまりにも足りないから、この世界を知るために旅をするつもりだ、まずはな。」
「お前は、まるでこの世界の人間ではないかのようなことを言うが…、それで知った後は如何するつもりだ?」
「恐怖と力で支配する、この世界を。」
 真顔で、落ち着いた感じで答えた。かえって、彼女のほうが逆に呆れて、
「おい本気か?」
「悪いか?お前は嫌か?」
「いや、わしは気に入った。しかし、可能だと思うのか?」
「お前の力がかつての力を取り戻して、私が強くなることが、まず第一条件だ。これは、十分可能だろう。後は、足がかりを作っておく。」
「何となく悠長なことだな。我は何十年かけて、かつて以上の力を回復することが可能だし、大したことではないが。」
 平均的な人間のお前は寿命が尽きるぞ、と言外に込めてみたが、
「100年、200年なら、私にも大した問題ではない。だが、嬉しいな、お前もそれが大した時間でないということは。」
「どういうことだ?」
「一目惚れの相手とずっと一緒にいたいからな。イシュタル。」
「何を恥ずかしがことを…。あ、なんだ、イシュタルというのは?我の名は…。」
「私が今名付けた。それだけだ。私は、カーツ・シン、これも今決めたことだ。」
 イシュタルは、半ば呆れて、もう逆らう気になれなかった。
 それから、2人の旅が始まった。彼は行く先々で揉め事に巻き込まれた。原因は、カーツから言わせると、イシュタルの方にあったのだが。仕事も危ない、魔獣退治など傭兵稼業が多かった。封印直後の、かろりーめいとを食べた直後の一番最低の状態でも、人間の超一流の魔法の使い手並みのイシュタルとは違いカーツは、並み程度の魔法、剣、格闘技の使い手でしかないから、頻繁に死んだ。八つ裂きになっても、次の瞬間復活して相手を倒した。そして、彼女の力が回復するのと同様に強くなり、上達した。戦闘にかかわることも含め、彼は色々と学んだ。鍛冶職とか、何でも。熱心さや努力は、イシュタルも認めたが、短期間のうちに、ほぼ完全にマスターした。“つくづく不思議な男じゃ。”としかイシュタルは思わなかった。
「何時でも、ほしければ抱かせてやってもいいぞ。かつては身も売ったし、弄ばれたこともある。」
 宿でそんなことを言ったとき、
「一目惚れした相手を、無理矢理抱くのは気持ちのいいものではないよ。」
「何を言っておる?恥ずかしいセリフを真面目くさって…。」
 そんなやりとりがあった後、彼のあまりの酷い殺され方を見て、本当に男の機能が大丈夫なのか心配になって、イシュタルの方から求めて一体となり、彼女があえぐことになった。本当に、心から繋がった関係になったのは、本当に多勢に無勢、彼は3度死に、彼女も抑え込まれる場面があったが、何とか切り抜けた後だった。死体の平原と血の海の中で、どちらともなく唇を重ね、長い口づけの後、飽くことなく、何度も一体となり、互いに貪りあった。それからだった。
 姉=イシュタル、男=カーツ・シンと名乗ったのは、姉弟の方がトラブルに巻き込まれない、見た目はともかく年齢はイシュタルが上だったからだが、トラブルよけにはならなかった。イシュタルにちょっかいをかけようとする男達、嫉妬する女達が絶えなかったからだった。

 
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