金剛石の花嫁 ⑦(最終話)

文字数 1,166文字

 アルメ邸にサンドルクから届けられた手紙は、二通あった。
 一通が先にやってきて、その後にもう一通、遅れたようにやってきた。
 それはリエーヴルに婿入りした弟からの手紙で、一通目はずいぶんと筆跡が乱れていた。

「わたしの身に起きていることをすべて説明できるか自信がない。
 しかしわたしがわたしであるうちにこの手紙を書いてしまわないと、きっともう時間が無いのだ。
 同じ手紙を書くのももう四回目になる。その間にもいろいろなことがあった。

 わたしの時間はいまや、ほとんどあいつに乗っ取られようとしている。水の中にインクを浸していくがごとく、わたしは別の人物に成り代わろうとしている。
 セシリアは庭師に襲われたのではなく、庭師と結ばれぬのならば別の手段に出ることにしたのだ。恐ろしい策略がそこには隠されていた。セシリアは森の魔女と共謀し、森に捨てられた庭師の死体を回収させた。そうして錬金術で――恐ろしいことに――その死体からダイヤモンドを作り出したのだ! そして庭師の魂ごとわたしに引き渡し、わたしの体を乗っ取ろうとした。いまやわたしが本来のわたしとしていられる時間は一日にほんの二、三時間ほどしかない。生活のほとんどがわたしではなく、別の人間として過ごしている……。
 セシリアが義親父殿に与えていたという都の薬もでたらめだった。
 彼女は都に手紙など送ってもいなかった。彼女は都の医者から貰ったなどと言って、水銀を与えていたのだ。都に送った義親父殿の髪の毛から水銀中毒がわかったとき、わたしはすぐさまセシリアの部屋を探し回った。中身が空の状態の薬のカプセルがいくつか見つかった。おそらくこの中身に水銀を入れていたのだ……。
 セシリアは庭師の男と結ばれるために、わたしを使ったのだ。

 これからわたしはセシリアを殺す。
 そうしてわたしは自分も死ぬつもりだ。そしてわたしの中にいる亡霊ごとすべてを終わらせる。
 戯言などと言わないでほしい。すべてを神はご存じなのだ。だからわたしはもうこの身を神に委ねるしかないのだ。
 どうかまだわたしでいるうちに、この懺悔をさせてほしい」

 鬼気迫る手紙の次にやってきた二通目はずいぶんと落ち着いた文字になっていた。
 だがその文字はジェロームのものではなかった。

「すまない、兄さん。
 慣れない仕事と義父のことでずいぶんと参っていたんだ。
 セシリアの不貞を疑ったり、奇妙な噂に惑わされたりとおかしなことになっていたんだ。
 精神安定の薬を貰ったらずいぶん楽になった。
 あの薬師の婆さんを魔女などと揶揄してしまったのも、いまとなってはおかしなことだと思っているよ。
 少し精神過敏になっていたようだ。いまは万事快調だから、なにも心配することはない。
 一通目の手紙もできればそのまま読まずに捨ててくれ。
 なにも無かったのだから。」
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