葛藤に満ちた回想

文字数 694文字

 甘味と塩味は紙一重である。

 つい先日友達が結婚した。

 その際に私は遺影を持ち出した。

 今は亡き親友の写真である。

 私は複雑な気持ちだった。
 こうして時のみが経ち、いつしか親友のことが過去に消えていくのが怖かった。もしかしたら、私が親友を追い詰めたかも知れないのに。

 私はスピーチを務めながら心の中で葛藤していた。

 私はこれで善いのだろうか?

 親友を残して私達は人生を謳歌して良いのだろうか?

 私にとって答えは「否」であった。

 親友にとって絶望がどれ程のものであったか判らない。私はその絶望を理解せず生きていたのだ。これは赦されることではない。
 誰が赦すかの問題ではないのだ。私が犯した選択の過ち故に親友が亡くなったのであれば、私は私自身を赦すことが出来ないのだ。
 親友が背負った重荷はどれ程であっただろうか?

 私にとって友達の結婚は手放しで嬉しい話。それは偉大な甘味だ。蜂蜜と乳で編まれた極上の至福。

 親友の死を思い出す度に極上の塩味に浸される。傷口に塩を塗り込む様な重荷。私はただ忘れたかったのかも知れない。
 友達の結婚を機に親友の死から忘却を試みようとしたのかも知れない。
 私は罪深い存在だ。極上の至福により親友の痛みを忘れたいと願ったのだ。
 
 今、毎日の様に友は私を気にかけてくれる。私にとってそれは救い。間違いない。私は祝福されている。同時に私には棘が満ちている。私が成り立つ為に多くの犠牲が要されている。私と人間を守る為に多くの方々が犠牲となっている。

 故に甘味と塩味は紙一重なのだ。
 
 呪いと祝福が紙一重である様に。

                         <完結>
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み