第一話

文字数 963文字

ここは辺境貴族・セファーナ家の領地の一つ。

セファーナ家は領主バイスによって監督されているが、

実際の作業などは五人の息子にそれぞれ行わせており、この領地は次男であるクリフの担当だ。

そんな地に、貴族のものにしてはやや質素な、それでいて手入れはしっかりされた馬車が入る。

乗っているのはクリフの姉、セラ・セファーナ。そして、今回領地の会計調査権限を与えられた、五男のギリアム・セファーナである。

ここがクリフ兄さんの領地ですね

ええ。ワインが有名な土地ね。結構年数たってから出荷するものもあるから、

大きなワイン蔵だとそれだけで領地一月分くらいのお金になるんじゃないかしら。

最近のワインは出来が悪いって言う人もいるから、

そういったビンテージものの価値はもっと上がるかも

それは困りますね。それに、個人的にちょっと気になることもできました
まだ現地の人と話してもないけど、どうしたの?
あの馬車の馬、ちょっとやつれてますし、台車と車輪の木の色も悪いです
木の、色?

ああ、防水用に油とか塗ったあとの木って、いい色をするじゃないですか。

雨風を凌ぐ必要のある馬車の全てにそれが見られないのは不自然でしょう?

ええ、そうね

ここに来るまで四台くらい領地を出ていく馬車を見ましたが、総じて同じ感じでした。

馬車は人と物の移動を支える役割があります。そこに十分に手がかかっていないんですよ

馬車の中からよく見てること

それにくわえ、道の敷石は概ねしっかり整備されています。

これ、領地全体として道の整備が滞るほど収入が低いわけではないのに、

それを支えている民の側に元気がないってことになりますよね

それは、気になるわね

おまけに人々が生産しているワインの質が下がっているという話もある。

今年の天気記録ではそこまで悪い要因がないにもかかわらず、です。

この領地はどうにもバランスが悪く感じますよ

って、来る前に天気記録もチェックしてたの?

当然です。天気は農作物はもちろん、軍事・貿易など領地全体に関わる重要な指標です。

……最悪ここの報告が改ざんされていることも考えてたんですが、

隣接する領地のと突き合わせても問題なさそうなのでそこまで徹底しているわけでもなさそうです

クリフは、どんな経営をしているのかしらね……

今はまだそれを予想できる状況じゃありません。

屋敷に行ってから、考えましょう

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登場人物紹介

ギリアム・セファーナ

セラ・セファーナ

クリフ・セファーナ

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