第47話  入れ替わって再び

エピソード文字数 3,891文字

 ※


 さて時間は過ぎ、五時になると俺のスマホのアラームが鳴った。

 聖奈と約束の時間だからセットしておいたんだ。

お~い聖奈。五時だぞ
あ、うん! じゃあそろそろ帰ろうかな

 白竹さんとの話に夢中だったのか、気が付かなかったらしい。


 俺もここから家に帰って楓蓮となり、バイトに行かなくては。

 それは白竹さんや魔樹だって同じだろう。そう思っていたのに……



 中々話が終わらない女子二人組。

 結局喫茶店を出たのは五時二十分くらいだった。俺はこの時点で既に縦線が生えていた。



 やばいぞ。バイトに遅刻しちまう。


(美優。楽しいのは分かるけど……早く帰らないと)
(ここからダッシュで家に帰っても喫茶店に遅刻しちまう。龍子に変わらねーといけないし)

 暫くしてようやく聖奈と白竹さんが椅子から立ち上がる。

 楽しそうに笑う二人。申し訳ないと思いつつ喫茶店を後にするのだった。



 ※



 お開きになった遠方組の集い。

 帰る方向はみんな同じだったので、仲良く歩いて帰ることとなった。



 その時、横にいた聖奈がスマホでの通話を終えると、耳元で喋りかけてくる。


平八も凛ちゃんもあんたの家にいるって。だから一緒にいくわっ
分かった。急がねーとやばい

 などと喋っている内に五時三十五分。ちょっとやばいぞ。

 このペースで行けば、絶対遅刻だ。

あ、ちょっとごめん。急用でさ、すぐ帰らないと。また遊ぼうね!

 

 染谷くんが手を上げて「今日はありがとう」と言いながら……

 物凄いスピードで走り去っていくのであった。


 あっという間に俺の視界から消えた染谷くん。ちょっと本気走りっぽくないか?


私達も。ちょっと急がないとバイトが……
ごめん二人とも。僕達もバイトあるから急いで帰るね

 今度は白竹姉弟がダッシュすると、途中でコケそうになった白竹さんを抱えて走る魔樹。

 その光景はとても微笑ましくあった。  


 あいつも染谷くん同様、体力テストで見かけたような素早さだ。

私達も急ぎましょうか。あんたもバイトあるんでしょ?
ああ。結構ヤバイ時間だ

 いくら楓蓮の着替えが駿足でも、圧倒的に時間が足りないと間に合わない。 



 前を走る白竹姉弟が見えなくなると、いつの間にか早足になり、聖奈も走り出す。


 ってかお前ヒールなのに早いなぁと思ったら、バランスを崩した聖奈は前のめりに倒れようとしたが、

危ないって、その靴じゃ
 間一髪で聖奈の腕を取ると、そのまま抱きかかえて走り出した。
ちょっとあんた!
こっちの方が早い。このクマ持ってろ

 聖奈を両手に抱えてダッシュすると、俺は本気走りを見せていた。

 早く帰らないとマジで遅刻しちまうんだって!



 信号待ちの間も聖奈を抱えて足踏みしていると「ちょと降ろして」と聞こえてくる。

恥ずかしいわよ

 と、そこで気が付いた。

 街中を聖奈をお姫様抱っこしながら爆走した事を。

あっうっ! すまん! じ、時間が……
分かったから。じゃあおんぶにしてよ

 おんぶならいいのか? 

 俺もそっちの方が早いぞ。しょっちゅう凛をおぶったりするからな。


 了承を得ないまま背中に張り付いた聖奈。

 丁度いいタイミングで信号が青になると、全速力で走り出した。




 

 その時。前からやってくるのは……新しいバイトの紫苑さんだった。

 しかも何故か走ってるし、今まさにすれ違った。



はよ行ったらな。誰もおらん言うてるし……



 やたら急いでいるような気がするぞ。  

 とはいえ、今は蓮なので喋られないが。


 

 聖奈をおんぶしたまま家のマンションが見えてくると、更に早くなる。


 駐車場には黒塗り高級車が止まっており、平八さんが出てくるといつもの無表情で「おかえりなさい」と挨拶してくるのだった。


これはこれは。仲がよろしいようで何よりですな
平八! 急ぐわよ
了解です。では車の中でお着替えになってください
じゃあね蓮。またね!
 そこで聖奈と別れると、俺は急いで階段を上がり、あっという間に玄関のドアを開けると、いつものように華凛が出迎えてくれた。
華凛すまん。バイトに遅れちまう。今日の事は帰ってからゆっくり聞くから

うん。いいよ。

平八おじさんもそう言ってたし……今日はお留守番しとくね

 華凛から返事を貰い自分の部屋に戻ると、さっさと服を脱ぎ散らかし楓蓮となる。



 目を開けてスマホを確認すると、既に五時五十分。

 しかも着信履歴がいっぱいあって、じいじからの連絡がモリモリ来てやがった。



 これ。やばいんじゃないのか?


 一応まだ遅刻ではないが……すぐに折り返して電話すると、出てくれない。



 今の内に服を着ると、スマホからじいじの声が聞こえてきたので、すぐにスマホを耳に当てる。

すまんの楓蓮ちゃん。ちょっと人がいなくての。

今さっき魔樹と美優が戻って来たんじゃが、ちょっと急いでくれんかな? じいじはもう倒れそうじゃ……

わ、分かりました! すぐ行きますっ!

 確かに死にそうな声だったので、俺はさっさと支度を済ませて、家から飛び出すのであった。



 ※

すみません。遅れましたっ!

 喫茶店のドアを勢い良く開けると、店内は既に修羅場と化していた。


 ほぼ満席の状態で、白竹さんと紫苑さんが走り回り、厨房では魔樹とじいじが頭から煙を上げながら料理に追われていた。



 こりゃ着替えるヒマもなさそうだ。


 そう思った俺は、私服のままオーダーを通し、水を汲み、レジを行っていると、白竹さんや紫苑さんに挨拶をしていく。

あ、楓蓮さん。どもですっ!
よろしくね。紫苑さん

 ってか。紫苑さん……


 あなた。無茶苦茶スピーディじゃありませんか?

 あの白竹さん。もとい。クル竹さんと互角の速さですよ。

    

 オーダー取るのも早いし、しかも確実だし、料理を取りに行くのも……

 まるで計算され尽くしたような動きなのだ。

 


 俺とどっちが古参なのか分かりゃしねぇ!

すませんっ! 遅れました!

 おおっ。ここで龍子さんも到着だ。

 いつもの教師風な格好も変わらない。これで何とかなりそうだな。

楓蓮さん。今の内に着替えちゃって。

交代で龍子さんも着替えて貰いましょう

 指示を飛ばすクル竹さん。

 やっぱりクールだと思った。何となく動きとか俊敏だし、顔が常に真剣だったからな。



 俺はさっさと着替え終わると、龍子さんとハイタッチ。

 その龍子さんもメイド服に着替え終わると、白竹さんが次の指令を下す。

私も厨房に行くから。三人で接客お願い
りょ~かいっす!
分かりました。任せてください

 こういうピンチになると、やたら燃えてくる。

 それは龍子さんも同じようで。やる気が満ち溢れていた。

お。新入りですか?
 あ、龍子さんは知らないのか。
ですです
百済紫苑です。よろしゅ~お願いします!
ハキハキと答える紫苑さんは恥ずかしそうな表情のままお辞儀するのであった。
分かった。とりあえず挨拶は落ち着いてからにするか。

 

 龍子さんの意見に同意した俺と紫苑さん。

 まずはこの状況を打破せねば、厨房にいるじいじが倒れそうだ。




 ※


 俺と龍子さんと紫苑さんの三人で接客に回ること一時間ほど。ようやく喫茶店に平穏が戻ってくる。


 クル竹さんが厨房に回っても、この三人で回せたのは大きい。

 やはり即戦力である紫苑さんの働きが一際輝いて見えるのだった。

 

ほんと。凄いですよね。何だか先輩の立場が無くなりそお
いえいえいえ。そんな事ないですって! もう一心不乱にその……やってただけで

 俺に喋りかけられると、すぐにちっちゃくなる紫苑さんであった。

 そんな気を使わなくていいのに。

私なんて、今日は愛情オムライスばっかり頼まれるし

 そのお陰で全然接客してないんですよ。

 ケチャップに精神集中してる時とか、申し訳ないと思ってましたから。

あはっ。そら~~頼むんやったら、楓蓮さんのでしょ? 

ウチかて誰のを頼む? 言うたら、絶対楓蓮さんの頼むわ

紫苑さんと二人で喋ってると、ようやく龍子さんも手が開いたので三人レジ前で並んでいた。
新入り。やるじゃねーか。俺より早いし
え? 俺?
あ、紫苑さん。龍子さんはね……俺っ娘なんです
そそそ。喋り方も完全に男だから。よろしくな

俺っ娘か。楓蓮さんがそう言うのなら……異議なし!

っつーか。こっちの方がやりやすいんだよ。

分かりましたっ! 俺っ娘なんですね。

普通にタメで喋ってくれていいから。

楓蓮さんみたいに、関西っぽくてOKだからな

ありがとぉございますっ! ほんならタメっぽく喋りますんで。

あかんかったら言うてくださいね。

 と、そこへフラフラしながら歩いてきたのはじいじだ。

 えらく消耗してるのか、足元が千鳥足みたいになってるぞ。 

すまんがじいじは休憩してくるぞい。フラフラじゃての
三人は揃って返事すると、じいじは急に愚痴りだした。

 今日はの、美優も魔樹も遊びに行ったまま中々帰ってこんでの。

 麻莉奈は連絡も取れんし……修羅場じゃったわい


 うぅっ……それは悪い事をしました。

 白竹さん達と遊んでたのは俺なんですよ。ごめんなさい。



 って事は、夕方の開店時はじいじ一人だったのか?

 そりゃ壊れそうになるぜ。


紫苑ちゃんもすまんかったの。初日がこんなにハードで……

いつもはこんな忙しくないんじゃが……

大丈夫です。何かここの人。みんな優しいし……頑張りますっ!

 紫苑さんはいい返事するよなぁ。

 俺の中で、彼女の株はうなぎ上りであり、とっても好印象である。  

すまなかったなじいじ。後は任せろ
と龍子さんが言うと、
そうですよ。ゆっくり休んでください

 

 白竹さん達が遅れたのも、俺のせいでもあるし。

 一人で奮闘してたじいじの為にも、今日はいつも以上に頑張らねば。

 


――――――――――――


 次回。その人は目の前に。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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