第5話

文字数 999文字

 知り合ったきっかけは、クラスメイトの紹介。第一印象は特に何も思わなかった。
 そして、その人の夢を見た。まただよ。恋する人を夢に見る私の予知夢よ。
 夢の中で私は、その人に私の姉と面影が似ているなと思った。
 私は私に呪いの言葉を放った姉が嫌いだけれど、同時に考えていた事もある。

『もし赤ん坊の頃に死んだ姉が生きていたら、私が辛い時に優しくしてくれたんだろうか? 助けてくれたんだろうか? そうだったら……良いのに』と

 だから、重ねて見てしまった。その人を、もし生まれ変わりがあるなら、こんな人だろうか? なんて。

 でもそんなこと、大して時間が経つ前に思わなくなった。
 何故ならその人自身に、急速に惹かれてしまったからだ。
 
 その人と接していると、私の凍っていた心が、どんどん解かされていって……
 気が付けば、私はその人に恋愛感情を抱いていた。
 人間嫌いの私が人間を愛したのは、初めてだった。
 その人だけは、本性の醜さ汚さ、嫌悪感といった、そういったものを感じなかった。

『ああ……世の中には、こういう人間もいるのか』

 そう、人間の中にも少ないけれど、良い人間もいるのだと気付かせてくれた。

 綾香様。綾香様に。綾香様は。綾香様へ。綾香様が。綾香様を。
 心の中でずっと呼んでた。シグやクロやシオンと話していても、話題が綾香様になる。
 一度も口に出して呼んだことがない。その人は特別だったから、その呼び方じゃないと心がわだかまって言い難くて……いつも名前は呼べなかった。同級生を様づけなんて……それも、学校内で目立ってた私が言ったら、綾香様に迷惑が掛かるだろう。そうして、名前も呼べず、同性ゆえに想いすら伝えられないままだった。

 私は綾香様の為なら何でも出来たろう。シグと約束したこと、誰も殺さないって信念だって綾香様を守る為なら破っていただろう。

 私は綾香様の前では平静ではいられなかった。それを隠す事も出来なかった期間は、今思い出しても変だった。
 綾香様に「逃げないで」って言われた時は、かなりショックだったんだよ。平静でいられなくて、綾香様から逃げていた。避けるような事をしていた。それを指摘されて初めて気づいたんだから。

 綾香様を見ていられた約2年間、私にとって一秒が最も尊い時間だった。時間が経つことが、これほど嫌だと思った事は他にない。
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