第35話 涙の記憶 3
文字数 2,363文字
「ジョセフ、遊ぼうよ」
そう言ってきたのは、ジェームズだった。
「おい、聞こえてるんだろう!」
ジェームズは苛立って二階のジョセフの部屋を見上げた。
ジョセフはそのことに縦にも横にも首を振ろうと思わなかった。ただ、動こうとも思わなかった。
やがて、ジェームズは舌打ちをして、「さっむー」と、両腕を摩って、去っていった。
あれから二、三日が過ぎた。ジョセフは流した涙もいつの間にか頬が渇いていた。食事もいつ食べたか忘れた。しかし、お菓子だけは部屋に散らかすほどに食べている。
スキルマーケットの掃除も今週は全て中止にした。丁度、土曜日にはホテル経由関係の会社―—社長の定期清掃だった。
「まあ、用事なら仕方がないね」
そう言った、書き込みをもらって、ジョセフはパソコン画面の右上のバツだけを押した。
ジョセフは何もしたくなく体育座りの大勢になっていた。元々感受性の強いジョセフだ。何かしらあればそこにブレが生じてしまう。
それに今回は、ソフィアの死について深く考えてしまっていた。ジョセフは何回もアメリアに言われた言葉を繰り返していた。
ジョセフは月曜日から学校を登校する予定だった。学校では友人が亡くなったので葬式に参加をするという休みと、体調不良という休みの二パターンを使った。
ジョセフは身体を微動だにしていない。部屋の電気もつけずにいた。逆に明るい気分ではなかったのだ。
曇っていた天気はやがて、大雨に見舞われた。外の風景が一気に黒く帯びている。
遠いところで雷が鳴っている。いっそのこと自分の身体を切り裂いてほしいと、ジョセフは思っていた。
ジョセフは結局、来週も学校を休みがちになった。どうしても精神面が治らなかった。
「どう体調は?」
唯一ジョセフの体調を知っているマムは、出来るだけ平然を装い、明るいテレビを付けて言った。
「うん、まあ、難しい……」
ジョセフはそう言いながら、食べ物を口にした。全ての速度がゆっくりだった。
それを見かねたマムは、
「ジョセフは私に似て、ちょっとしたことでも色々考えてしまうのね。私は学生時代の時に身近な人の死を真に受けたことはなかったから分からないけど……」
そう言って、ジョセフの顔色を窺ったが、彼はゆっくり咀嚼していた。
「あのね、今日、実は会社の人にジョセフのことを言ったのよ。そしたら、精神病院に一回診てもらったらって言われたのよ。それってどう?」
マムはそう言うと、ジョセフは黙ったままマムを睨みつけた。
「何だよ。僕が異常者って言いたいのかよ」
「別にそうじゃないわよ。ジョセフの気分が晴れたら学校も行けるし、きっとソフィアさんも……」
すると、ジョセフは立ち上がった。
「そんなことしてもらわなくてもいい!」
そう言って、ジョセフはマムを見下げるように威嚇をしていた。
「あの、私だって、ジョセフのことをきちんと考えてるのよ」
マムも今まで溜まっていたストレスが怒りに変わって立ち上がった。
「分かってるよ! 別に一人にしてよ」
そう言ってジョセフは自分の部屋に戻っていった。
一人取り残されたマムは感情の糸が切れたように、思わず、手に取った湯飲みを強く床に投げ捨てた。その湯飲みは見事に部屋中に響き渡る音とともに、破片が散らばった。
ジョセフはジョセフで焦っていた。何としてでも、この気分を脱却したい。すっかり部屋が以前の汚くて散らかった部屋に戻り、憂鬱な気分の中、インターネットで引きこもりの克服法を見ていた。
そのうちの一つに、昔引きこもっていた男性が、良く真夜中に散歩をするといった行動を取って解決に至ったという、記事を見た。
ジョセフは早速やってみた。夜中の一時にコンビニに出かける。これなら学校の生徒にも見つからないし、外の空気も吸える。
ジョセフは清掃業務で溜めていたお金があったので、近くのコンビニに足を運び、チョコレートとジュースを買いに行った。
そして、朝に寝るといった、昼夜逆転の行動に出た。
これにはいつもは我慢しているマムも、流石に怒っていた。
「また、学校の担任の先生に電話するわよ!」
マムはそのことを知って、早朝帰ってきたジョセフの部屋の前で言った。
「別にいいよ。もう三学期も終わるし、担任の先生も来年も一緒のクラスとは限らないし……」
「じゃあ、校長先生に電話するわ」
「何でもすれば」
過去に引きこもっていたジョセフを何とか登校させたのに、こんなことになるなんて……。マムはその日、自分が可哀想で寝室で涙を流していた。
ジョセフの真夜中の散歩はたちまち噂になっていった。しかし、ジョセフはそれを止めつもりはなかった。
マムも他の人たちも、ジョセフはまた以前のように引きこもっていくのだろうと思っているようだが、ジョセフは散歩をすることで前向きになれることと、今後のことについて考えていた。
ソフィアもアメリアも掃除に関しては応援してくれていた。ソフィアと実際対面で話をしたことはなかったが、アメリアが温かい性格なので、きっとソフィアも優しさ溢れた人物なのだろう。
ジョセフはまた学校にしれっと登校してやろうと考えていた。確かにそこには自分の敵がたくさんいる。次こそはイジメの対象になるのかもしれない。だが、ソフィアからもらった言葉、アメリアが応援してくれるのであれば、そこに飛び込んでやろうと思い始めていたのだ。
――また、スキルマーケットの清掃業務も再開しなくちゃな。
そんなことを考えていた時に、遠い場所で、何か赤いものが見えた。
ん? 何だあれは……。
ジョセフは最初、何か未確認飛行物体のようなものなのかと思った。しかし、そちらの方に歩いていくと、何かが分かった。
火事だ!
あの家はサーベルの家だ。
ジョセフは小走りから、やがて駆け足になった。
そう言ってきたのは、ジェームズだった。
「おい、聞こえてるんだろう!」
ジェームズは苛立って二階のジョセフの部屋を見上げた。
ジョセフはそのことに縦にも横にも首を振ろうと思わなかった。ただ、動こうとも思わなかった。
やがて、ジェームズは舌打ちをして、「さっむー」と、両腕を摩って、去っていった。
あれから二、三日が過ぎた。ジョセフは流した涙もいつの間にか頬が渇いていた。食事もいつ食べたか忘れた。しかし、お菓子だけは部屋に散らかすほどに食べている。
スキルマーケットの掃除も今週は全て中止にした。丁度、土曜日にはホテル経由関係の会社―—社長の定期清掃だった。
「まあ、用事なら仕方がないね」
そう言った、書き込みをもらって、ジョセフはパソコン画面の右上のバツだけを押した。
ジョセフは何もしたくなく体育座りの大勢になっていた。元々感受性の強いジョセフだ。何かしらあればそこにブレが生じてしまう。
それに今回は、ソフィアの死について深く考えてしまっていた。ジョセフは何回もアメリアに言われた言葉を繰り返していた。
ジョセフは月曜日から学校を登校する予定だった。学校では友人が亡くなったので葬式に参加をするという休みと、体調不良という休みの二パターンを使った。
ジョセフは身体を微動だにしていない。部屋の電気もつけずにいた。逆に明るい気分ではなかったのだ。
曇っていた天気はやがて、大雨に見舞われた。外の風景が一気に黒く帯びている。
遠いところで雷が鳴っている。いっそのこと自分の身体を切り裂いてほしいと、ジョセフは思っていた。
ジョセフは結局、来週も学校を休みがちになった。どうしても精神面が治らなかった。
「どう体調は?」
唯一ジョセフの体調を知っているマムは、出来るだけ平然を装い、明るいテレビを付けて言った。
「うん、まあ、難しい……」
ジョセフはそう言いながら、食べ物を口にした。全ての速度がゆっくりだった。
それを見かねたマムは、
「ジョセフは私に似て、ちょっとしたことでも色々考えてしまうのね。私は学生時代の時に身近な人の死を真に受けたことはなかったから分からないけど……」
そう言って、ジョセフの顔色を窺ったが、彼はゆっくり咀嚼していた。
「あのね、今日、実は会社の人にジョセフのことを言ったのよ。そしたら、精神病院に一回診てもらったらって言われたのよ。それってどう?」
マムはそう言うと、ジョセフは黙ったままマムを睨みつけた。
「何だよ。僕が異常者って言いたいのかよ」
「別にそうじゃないわよ。ジョセフの気分が晴れたら学校も行けるし、きっとソフィアさんも……」
すると、ジョセフは立ち上がった。
「そんなことしてもらわなくてもいい!」
そう言って、ジョセフはマムを見下げるように威嚇をしていた。
「あの、私だって、ジョセフのことをきちんと考えてるのよ」
マムも今まで溜まっていたストレスが怒りに変わって立ち上がった。
「分かってるよ! 別に一人にしてよ」
そう言ってジョセフは自分の部屋に戻っていった。
一人取り残されたマムは感情の糸が切れたように、思わず、手に取った湯飲みを強く床に投げ捨てた。その湯飲みは見事に部屋中に響き渡る音とともに、破片が散らばった。
ジョセフはジョセフで焦っていた。何としてでも、この気分を脱却したい。すっかり部屋が以前の汚くて散らかった部屋に戻り、憂鬱な気分の中、インターネットで引きこもりの克服法を見ていた。
そのうちの一つに、昔引きこもっていた男性が、良く真夜中に散歩をするといった行動を取って解決に至ったという、記事を見た。
ジョセフは早速やってみた。夜中の一時にコンビニに出かける。これなら学校の生徒にも見つからないし、外の空気も吸える。
ジョセフは清掃業務で溜めていたお金があったので、近くのコンビニに足を運び、チョコレートとジュースを買いに行った。
そして、朝に寝るといった、昼夜逆転の行動に出た。
これにはいつもは我慢しているマムも、流石に怒っていた。
「また、学校の担任の先生に電話するわよ!」
マムはそのことを知って、早朝帰ってきたジョセフの部屋の前で言った。
「別にいいよ。もう三学期も終わるし、担任の先生も来年も一緒のクラスとは限らないし……」
「じゃあ、校長先生に電話するわ」
「何でもすれば」
過去に引きこもっていたジョセフを何とか登校させたのに、こんなことになるなんて……。マムはその日、自分が可哀想で寝室で涙を流していた。
ジョセフの真夜中の散歩はたちまち噂になっていった。しかし、ジョセフはそれを止めつもりはなかった。
マムも他の人たちも、ジョセフはまた以前のように引きこもっていくのだろうと思っているようだが、ジョセフは散歩をすることで前向きになれることと、今後のことについて考えていた。
ソフィアもアメリアも掃除に関しては応援してくれていた。ソフィアと実際対面で話をしたことはなかったが、アメリアが温かい性格なので、きっとソフィアも優しさ溢れた人物なのだろう。
ジョセフはまた学校にしれっと登校してやろうと考えていた。確かにそこには自分の敵がたくさんいる。次こそはイジメの対象になるのかもしれない。だが、ソフィアからもらった言葉、アメリアが応援してくれるのであれば、そこに飛び込んでやろうと思い始めていたのだ。
――また、スキルマーケットの清掃業務も再開しなくちゃな。
そんなことを考えていた時に、遠い場所で、何か赤いものが見えた。
ん? 何だあれは……。
ジョセフは最初、何か未確認飛行物体のようなものなのかと思った。しかし、そちらの方に歩いていくと、何かが分かった。
火事だ!
あの家はサーベルの家だ。
ジョセフは小走りから、やがて駆け足になった。