第1話 ジョセフという少年

文字数 1,453文字

「ジョセフ、ジョセフ」

 その声を聞いて、マンガ雑誌を読んでいたジョセフはけだるそうに、暖色系の薄黄色のソファから起き上がった。

「あんた、また、スナック菓子の袋散らかして」

 そう癇癪を立てているのはジョセフの母親、マムだった。彼女はジョセフが座っているソファに、菓子の食べかすを発見した。

「もう、そこどいて」

 マムはハンディ掃除機で、ジョセフの周りのゴミを吸い取った。

「そんなに汚してないよ」

 ジョセフはそう呟きながら、開いた雑誌のマンガの方に目をやる。反省はおろか、マムがせっかくキレイにしているのに、感謝の一つもない。

 おまけに鼻の穴を人差し指でほじっていて、親指と人差し指で丸めて、ポイっと床の方に投げる始末。

 マムは憤怒の表情を見せたが、口にする気も失せて、閉口した。

 ――いつものことだ。マムはそう思っていた。中学二年生のジョセフは反抗期、思春期といわれる年頃だ。

 確かに、異性には関心がある。マンガの巻頭グラビアアイドルが写っているページに彼は興味津々である。ただ、その本能が強いのか、本人は隠しているつもりだが、吟味するように見ている。

 マムは微妙な年頃の行為に、何も言わないが、この子はどうなっていくのだろうと、先が思いやられる。

 ジョセフは体形がぽっちゃり太っている。もっと強いて言えば、ただの肥満体だ。

 食べる事には貪欲であり、特に間食のお菓子に目が無い。

 それだから、中々痩せることもない。寧ろ太っているばかりだ。

 運動は苦手、勉強も苦手。

 しかし、マンガやゲームなどの楽しいものは好きだ。

 ジョセフはマムに対して口答えをしたことはないが、純粋だったあの幼い頃の性格はマムが思わずため息を漏らすほど消えていた。

 とはいっても、自分が悪かったのだ。とマムは痛感していた。自分の夫、ジョセフの父親、クリスはジョセフが五歳の頃に、他の女性の家にいった。

 理由は、ただのクリスの女好きだ。結婚して子供も出来ても、その性格が変わらなかったからだ。

 何回かの浮気は見逃した。マムもそれほど気が強いわけではない。しかし、黙っていればいるほど、彼は隙があれば何度も繰り返していく。

 それが、マムが家庭の為に溜めていたお金に手を出した時、マムは離婚の決意したのだ。

 別れを切り出した時は、ジョセフはまだ五歳だった。その幼く屈託のない笑顔を見ながら、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



 ジョセフはリビングのソファにいると邪魔扱いされるので、自分の部屋に入った。

 彼の部屋はお世辞でもキレイとはいえない。

食べた菓子や、パンなどの袋をゴミ箱に捨てずに床に置く。鼻を噛んだティッシュも床に置く。また、マンガの単行本も整理整頓せずに、本棚から飛び出したり、上下を逆にして入れたり、まるで、汚すことを趣味としているくらい汚い部屋だった。

しかし、ジョセフはそこには見向きもせずに、ニヤニヤ笑いながら、パソコンを起動する。

 モニターの壁紙はグラビアアイドルで活躍して、今テレビでも引っ張りだこのルナという十七の少女だった。

 ジョセフは三カ月前からルナのファンだった。バラエティ番組で彼女がテレビに出ていたのをきっかけに、心を奪われた。

可愛らしい透き通った声に、はち切れんばかりの胸。それに対し、スマートで華奢な体型だ。マンガのヒロインのような雰囲気に、ジョセフは一気に彼女の虜になっていった。

 フフフンとジョセフは鼻歌交じりに陽気になった。

 こんな可愛い子が自分の彼女だったらなあ。

 そんなことを考えてニヤニヤしていた。
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