第4話 坂道発進と半裸

文字数 1,105文字

お猿にメイドにオタク。
さすがにここまで来たら、もう何も動じる事はないよ・・・。
何が来ても、あたしは大丈夫な気がする。
なんだか短期間で物すごく耐性ができた気がする。
アナウンスがあり、準備をしてくださいと言われたので、割り当てられた教習車の所に行った。

「おまえが松本か。俺が細川だ。さっさと安全確認と点検済ませて車に乗れ」

男の人の声のする方を振り返ったら、上半身裸の良い筋肉をした体つきの男が立っていた。

うほーーー!!
こ、これは教習に集中できない。
いいっ!!
すごくいい!!
た、たまらん!!

「は、は、はい」
「今日は坂道発進をやるぞ。ああ、AT限定か。ATならそんなに難しくねぇから。よかったな」
「あ、あの…‥」
「あ?」
「な、なんで上半身裸なんですか…‥?」
「暑いから」
「まだ寒いですよね…‥」
「鍛えてる人間は、暑いって感じるんだよ。おまえは、鍛え方が足りてないんだ」
「すみません……」

……て、なんであたしが謝るんだよ。
教習者に乗って、坂道のところまで走っていった。

「坂道で渋滞したら当然ブレーキを踏んでその場に止まる。ブレーキを離したらどうなる?」
「えっと、車が下がって後ろの車に当たります」
「下がらないように前に進むのが坂道発進だ。サイドブレーキをかける。アクセルを踏んで音が出たくらいのタイミングで、サイドブレーキを外せ。やってみろ」
「はい」

サイドブレーキをかけて、アクセルの音を出してサイドブレーキを外す。

「それでいい。ATはクラッチ操作がないから簡単だろう。ミッション車での坂道発進が苦手なやつは、少なくない」
「そうですね……。思ったよりは」
「車によって坂道で下がりやすい車、下がりにくい車があるから、乗る車の特性をよく把握しておけ」
「はい」
「そういえばおまえ、男が好きなんだってな」
「えっ……」
「さっき尾田が言ってた。今日は細川氏が松本さんの講習なんだね。松本さん平常心を保てないだろうなって言うからなぜだと理由を聞いた」

あのオタク野郎……。

「は、はい・・・。目のやり場に困ります・・・」
「俺が服を着ないのは俺のポリシーだ。おまえが努力しろ」

服くらい着てくれよ……。
あたしが努力する必要なんてないじゃないか……。

「すみません」
「おまえは、この坂道を上ろうとする車と同じだ。坂の途中で止まっている。勢いがない。だから坂の向こう側の景色が見えない。自分の意見をはっきり言って前に進め」
「……ドキドキして教習に支障が出るので……服を着てください」
「なんだ、ちゃんと言えるんじゃねぇか。言いたいことを言わなければ、相手には伝わらない。自分を解放しろ。解き放て」

あんたは、いろいろ解放しすぎだけどね……。

「はい……」
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