第6話(4)混戦⁉Dブロック

文字数 5,311文字

「う、宇宙人が何故ここに……?」

「シリタイノカ?」

「ま、まあ、それは……」

「コノホシノ“マホウ”トイウモノニキョウミヲモッタ……」

「そうなんですか……」

「イジョウダ……」

「え⁉ それだけ⁉」

「フマンカ?」

「い、いや、不満というか……ま、まあ、次、お願いします!」

「は、はい! チーム『怒髪天』のゴメス選手、意気込みをお願いします」

「ヒャハハ! とにかく暴れまくるぜ!」

 特徴的なヘアスタイル――メアリに聞いたところ、モヒカンと言うそうです――をされた男性が甲高い声で宣言されました。リポーターさんは明らかに困惑しています。

「だ、だから暴れまくられたら困るのですが……つ、次、お願いします」

「は~い、チーム『覆面と兄弟』のブリッツ=サタア選手、お兄さん残念だったね~」

「へっ、オレは兄貴と同じ轍は踏まないよ」

「お、頼もしい感じだね~やっぱり兄弟揃ってイケメンだね~」

「あ、ありがとう……」

「合コンに誘いたいところだけど、お酒は早いか……お食事なんかどう?」

「悪いけど……」

「はいはい、みなまで言わなくていいよ……どうせ心に決めた人がいるって言うんでしょ? 誰なんだろうな~その罪作りな女は? まあ、いいや、お返ししま~す」

「あ、ありがとうございました……さあ、中堅戦に臨む4人がリングに上がりました……今、審判が開始の合図を出しました!」

「おらおら! 行くぜ! まずは坊主! てめえだ!」

 ゴメスさんがゲンシンさんに飛びかかります。

「せいや!」

「ぐほっ⁉」

「ゴメス、ラッシュを仕掛けるも、ゲンシンに的確なカウンターを喰らってしまった!」

「ば、馬鹿な……!」

「こっちは国で一番の寺で修行してきたっス! そんな力任せの攻撃喰らわないっス!」

「モ、モンクってやつか……確かに素手は無謀だな……ならば、これで行くぜ!」

「なっ⁉」

「こ、これは! ゴメス、頭のモヒカンを外したぞ! と、思ってきたらまたモヒカンが生えてきたぞ! それも外した! また生えた! そして両手にモヒカンを構えたぞ!」

「ど、どういう仕組みなんスか? その髪の毛は……?」

「さあな、知らねえけど、ガキの頃からこういうもんなんだよ! そしてこのモヒカンはこうやって使うんだよ!」

「ぐっ!」

「な、なんと、ゴメス、モヒカンを短剣のように扱っている!」

「只の短剣じゃないっス! 独特の形状をしているから、軌道が予測出来ないっス!」

 ゴメスさんの剣にゲンシンさんが防戦一方になります。

「へへッ、このままじゃ切り刻んじまうぜ~? 降参した方が良いんじゃねえか~?」

「その心配には及ばないっス! 『炎上虎舞』!」

「どわっ⁉」

「おっと! ゲンシンの放った攻撃がゴメスを吹き飛ばした!」

「なっ……炎を纏った虎……⁉」

「そう、ウンガンは鳳凰、そしてオイラは虎の力を借りることが出来るっス!」

「そ、そんなもん反則じゃねえか!」

「モヒカン短剣やドリルリーゼントもなかなかだと思う……っスよ!」

「しまっ! ……間合いに入られた……!」

「『虎牙炎拳』!」

 ゲンシンさんの上下同時に放った拳がゴメスさんの顎を砕き、ゴメスさんは倒れます。

「ゴメス、敗北! 0ポイント!」

「こんなところで手こずっている場合じゃないんだよ! 『稲妻波濤』!」

「おおっと、ブリッツが一度飛び上がってかかとで力強くリングを踏み付けたところ、稲妻の波がリング上を四方八方と駆け抜けた! これは躱せないか!」

「へっ……何っ⁉」

「おおっ! ゲンシンが立ち上がったぞ」

「ば、馬鹿な! 感電したはず!」

「このおっさんの便利な髪をお借りしたっス! この短剣を避雷針代わりにしたっス!」

「そんな馬鹿な! ……もう一人は……いない⁉」

「え⁉」

 ブリッツとゲンシンさんは慌てて周囲を見回します。やや間があって、レイさんがその姿を現します。ブリッツが驚きます。

「なっ⁉ と、透明になっただと⁉」

「チョットシタ“カガク”ダ、キニスルナ……」

「気にするだろ! 何が『魔法>科学』だよ! よっぽど超科学じゃねえか! まずはてめえから片付ける! 喰らえ! 『雷迅脚』!」

 ブリッツの繰り出した蹴りがレイさんに当たったかのように見えました。

「得体のしれない相手っスからね、助太刀させてもらうっス! 『炎爪脚』!」

「ゲンシンも虎と化してレイに迫る!」

 ゲンシンさんの繰り出した攻撃もレイさんに当たったように見えました。

「くっ、手応えがあったはずなのに……」

「倒れないっスね~」

「オンナニヨウシャノナイレンチュウダ……オシオキヲシナケレバナ」

「なっ!」

「お、女⁉」

「『カウンターバースト!』」

「ぐはっ……オ、オレの雷撃を跳ね返しただと……?」

「ブリッツ、敗北! 1ポイント!」

「炎を返してきた……体内に溜め込んでいたんスか? それもう魔法じゃないスか……」

「ゲンシン、敗北! 2ポイント! レイ勝利、3ポイント!」

「レイ! 魔法を超越した超科学で対戦相手を圧倒! これが宇宙人の持つ力か! Dブロック中堅戦はチーム『魔法>科学』が勝利! ……さあ、続いては大将戦です! 各リポーターさん! 選手の意気込みをお願いします!」

「はい……チーム『龍と虎と鳳凰』、ソウリュウ選手! 意気込みをお願いします……」

「特にない……ただ勝つだけだ」

 リポーターさんの問いに、長い黒髪を後ろで一つしばりにした男性が淡々と答えます。

「ソウリュウ選手は大丈夫なのですか?」

「……なにがだ」

「東の大国のやんごとなき御身分であらせられるとか……今回のこの大会への参戦。お国の方々はご承知なのですか?」

「な、何を言っているのか分からんな……余はただの平凡な旅行者に過ぎん……多少武術の覚えがある故に参加しただけのことだ……」

「平凡な旅行者がお召しにならない立派な服かと思いますが……」

 これについてはわたくしや他の方々も同意見で、コロシアム内に妙な空気が流れます。

「ぶ、武術で優れた成績を修めたものに与えられる衣服だ、他意はない!」

「……申し上げにくいのですが……」

「なんだ……?」

「かなり体格で不利な戦いを強いられる恐れがありますが……」

 あらためて拡声器を向けられたその方は口調こそある程度大人びていますが、どこからどう見ても少年のような体つきにしか見えません。袖や裾が余りまくっていて、裾など引き摺ってしまっています。これで体格に優る相手と渡り合えるのでしょうか?他人事ながらとっても不安です。

「つまらんことを聞くな、体格差など大した問題ではない……」

 ソウリュウさんは子供扱いされたことに怒るでもなく、淡々と答えます。

「失礼しました、次、お願いします」

「はい、チーム『魔法>科学』のマイク選手! 意気込みをお願いします!」

「はい! 魔法の素晴らしさを皆さんに知ってもらいたいです!」

 拡声器を向けられた、紺色のローブに身を包み、とんがり帽子を被った、いかにも魔法使いでございますという出で立ちの青年が爽やかに答えます。

「魔法の素晴らしさですか……ただ、お国は科学が大変発達していると聞きますが?」

「科学のことを全て頭ごなしに否定するわけではありません。ですが、それに依存し過ぎるのは危険だと考えています。その点、魔法という概念は、このスオカラテという世界において、古より民に寄り添ってきました。僕……私は今一度魔法というものを見直す必要があると思います。そもそもにおいて……」

「時間の関係もありますので、次、お願いします!」

「は、はい、チーム『怒髪天』のディーディー選手、意気込みをお願いします」

「HAHAHA! ブラザーもシスターもド派手に暴れまくっていたね! 俺も負けずにフィーバーするぜ!」

「フ、フィーバーですか……?」

 黒い大きなアフロヘアの褐色でマッチョな男性のあまりのハイテンションぶりにリポーターさんは若干引き気味になります。

「ああ、俺も暴れまくるぜ、YEAH‼」

「で、ですから、暴れまくられると困るのですが……次、お願いします」

「は~い、チーム『覆面と兄弟』の匿名希望選手? 意気込みをお願い出来ます?」

 ローブを纏い、フードで頭部を覆った人物は覆面で顔を完全に隠しています。

「……」

「あれ~無言?」

「……」

「このままだとチーム敗退しちゃうけど、その辺どう?」

「勝つだけだ……」

「お、しゃべってくれた。それでも正体不明だな~まあ、いいか、お返ししま~す」

「ありがとうございました……さあ、大将戦に臨む4人がリングに上がりました……今、審判が開始の合図を出しました!」

「魔法の素晴らしさ、身を以って知って頂きます! 『氷雨』! 『炎波』!」

「マイクが杖を掲げ、リングに氷の雨を降らせ、炎の波を発生させたぞ!」

「この魔法の組み合わせ! 躱しようがないでしょう!」

「『ボンバーラッシュ』‼」

「⁉」

「おおっと! ディーディー、自分のアフロをおもむろにむしり取り、小さなアフロを次々と弾いて爆発させたぞ! マイクの発生させた氷と炎を無効化させた!」

「俺のアフロは無限に生えては派手に爆発するぜ! まさに取り扱い注意の危険な男ってわけさ! HAHAHA!」

「そ、そんな……」

「ヘイ! ブラザー! しけた面すんなよ! フィーバーしていこうぜ!」

「どわっ⁉」

 アフロ爆弾を喰らったマイクさんはリング外に吹っ飛びました。

「マイク、敗北! 0ポイント!」

「YEAH! どんどん盛り上がっていくぜ!」

「……やかましい奴だな、余が片付けてやろう……」

「ソウリュウが構えを取ったぞ!」

「HAHAHA! チビちゃんに俺の爆弾フルコースが躱せるのかい?」

「躱す必要などない……喰らえば良いだけのことだ」

「ホワッツ⁉」

「ああっと、ソウリュウ、ドラゴンの姿になり、リング上に溢れるアフロ爆弾を片っ端から平らげてしまったぞ!」

「龍のことをドラゴンと言うのか……地域によって呼び名は様々なのだな……」

 ソウリュウさんはドラゴンから人間の姿に戻ります。

「ぐっ……」

「手品……いや、頭品は終わりか? ならば消えろ、『龍王烈火拳』‼」

「OH⁉」

 ディーディーさんはソウリュウさんの拳から放たれた赤いドラゴンのような形状をした衝撃波によってリング外に吹き飛ばされました。

「ディーディー、敗北! 1ポイント!」

「次は覆面、貴様だ!」

「……」

「返事はなしか……気に食わんやつだ、一気に決めるぞ、『龍王烈火拳』‼」

「『水龍』!」

「なっ⁉」

「おあっと! リング上の中央で匿名希望が放った青いドラゴンとソウリュウが放った赤いドラゴンが激しくぶつかり合っているぞ!」

「ぐっ! み、水の龍だと⁉」

「……!」

「どわっ!」

「ソウリュウの赤いドラゴンが吹き飛ばされた!」

「余が負けるとは……水と炎、相性が悪かったとはいえ、消し飛ばすとは……貴様、並みの戦士ではないな……」

「……」

「ふっ、褒めているのだ、礼の一つくらい言え……」

 ソウリュウさんはうつ伏せに倒れこみました。

「ソウリュウ、敗北! 2ポイント! 匿名希望勝利! 3ポイント!」

「……ということは、Dブロック勝者はチーム『龍と虎と鳳凰』、『覆面と兄弟』に決定! 2チームが準決勝に進出です! 準決勝は明日です! 更なる熱戦をご期待下さい‼」

 実況の方の興奮気味なアナウンスに釣られ、会場が大いに沸きます。そうした喧騒をよそにわたくしは静かに目を閉じ、『ポーズ』、『ヘルプ』と唱えます。

                  ♢

「どうされました?」

「……ご覧になっていましたか?」

 わたくしはアヤコさんに尋ねます。

「ああ、すみません、生憎ランチの後のティータイムと重なってしまって……」

「いや、なにを優雅にお茶なんかを飲んでおりますの⁉」

「仕事にはメリハリというものが大事ですから……」

「ま、まあ、それはそうですわね。失礼しました」

「ところで、ご相談はなんでしょうか?」

「明日、準決勝が行われます」

「それは承知しています。Aブロック2位で臨むのですよね?」

「ええ、Bブロックの1位、Cブロックの2位、Dブロックの1位と対戦することになっています。Bブロックの1位に関してはこの後抽選で決めるようですが、現在、対戦することが決まっている相手が、怪力を誇る巨人、その巨人を倒した女番長と封印した、恐らくは魔法学校のエリート学生、さらに、ドラゴンやタイガーやフェニックスの姿に変化出来る、またその力を借りて戦う常識外れの方々なのです……」

「なかなかに個性的な顔ぶれですね」

「一言で片づけないで下さい」

「すみません、立て込んでおりまして……ああ、あの先生からまた相談が……」

「ちょ、ちょっと待って! ど、どうすればよろしいでしょうか⁉」

「……そういう時は己に言い聞かせるのです」

「言い聞かせる?」

「そうですね、例えば……『わたくし、なんだかスッゴいワクワクしますわ!』とか」

「は、はあ……」

「それでは失礼します」

「あ、切れた……『ポーズ解除』」

                  ♢

「全然ワクワクする要素が無いのですが……」

 わたくしはため息交じりに呟きます。
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