第1話

文字数 963文字

「変なウイルスが中国で流行っているんだって」
「あ、それ、聞いたことある」
「どういうの?」
「中国の海鮮市場でコウモリが関係しているみたくて」
「なにそれ」

 2020年1月初め、ファミレスで友人達とそんな話をした。漠然とした情報をお互い持ち寄り、顔つき合わせて。まだ、海の向こうの話だった。
 パンデミックというものはこんな風に広まるのか。3月13日には新型コロナウイルス対策特別措置法が成立。
もう気軽に『会食』はできなくなった。

 そしてそれに伴い、私の職場はかなり忙しくなった。ちなみに医療従事者ではありません。私にそんな能力は無い。

 定時なら5時半には退勤できるところを、毎日残業が続き、夜9時を回るようになり。
いや、忙しいということは有り難いことなのだ。コロナの影響によるシフトチェンジの大波に(さら)われ、仕事が無くなってしまった人が大勢いるのだから。
(それでもその大波を乗りこなす、商才にたけたタフな人は存在する。本当に困っている人は寡黙なので、見つかりにくい状況ではある)


 疲れてはいたが非日常めいた妙なテンションを抱えたまま、帰路を急ぐ。今日は金曜日。明日は休日出勤をまぬがれ、開放感もひとしお。

 緊急事態宣言下、まったく車も人通りも途絶えた薄暗い大通りを、自転車で斜め横断する。
まるでディストピアSFの世界に紛れ込んでしまったかのよう。
とにもかくにも地球規模の新章突入。2019年がえらく遠くなってしまった。

 今日は少し早めに退勤できた。そんなときはラーメン屋さんに寄るのが、目下の楽しみ。
いつもの野菜たっぷり豚骨ラーメンを頼む。
店内のお客さんは、私と奥にもう1人のみ。店員さんは東南アジア系の若い女の子。
疲れているときは、外国人店員の距離感が心地よかったりする。わかる人いませんか?
やっぱりネギを追加でトッピングして正解だった。美味い。

 ああ、でも、そうだな。
もう国籍とか関係なく、私達はチームだな。ウイルスは人種や国境を忖度しない、恐ろしく公平だ。私達は今、地球上で一丸となりチームで戦っているんだよな。
おっと、やっぱり妙なテンションになっている。

「ごちそうさま」
 すると店員の子は、マスク越しにもわかる笑顔で、
「いつもアリガト」
 そう言うと、トッピング無料券をくれた。
「うわ、ありがとう」

 これでまた少し頑張れるよ。

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