第1話 今井くんの場合

文字数 765文字

私の人間学研究所に今井くん(62歳・独身)と云う方が居ります。
風貌は恰幅もよく、長身、顔相はゆとりの有る大学の教授か、財界の社長の様な方です。
しかし・・・何がが違うのです。
掃除の仕事を担当して居ますが非常に真面目で「ハイ、ハイ」とこなして行きます。
しかし、気が小さいのです。
学生時代、山登りが好きで貧しい生活には我慢出来ると語っています。
履歴書を見ると某国立大学を卒業、地学を専攻して来たと書いてありました。職歴は定職には着かず、主にアルバイトで生計を立てて来られた様です。
現在も週に一回、塾の数学の講師?をしているそうです。
 数年前に学生時代から長年在住していたアパートが出火し、家財は全て焼けてしまったと言ってました。
出火元は下の大家さんで、保障金として五十万円を貰って、現在は某駅近くのUR高層の八階(ワンK)に在住しています。
更に聞くと冷蔵庫、炊飯器は壊れ、洗濯機は無く汚れたモノは手洗い、風呂は、たまにシャワーを使い『温泉(スパ)』を利用していると言いました。
たまに実家に帰ると、両親がしつこく見合いの話を勧めるので最近は『面倒臭いから帰らない』そうです。
現在の住まいは冷蔵庫は本棚に、ガスコンロのゴトクが無く、茶碗の割れたモノを代用して鍋でご飯を炊いているそうです。
そして壊れた炊飯器の釜は洗面器に代用、自転車は無く、衣料品や履き物は主に貰いモノ、愛用のリュックは裏がボロボロでした。米は自宅が米農家なので定期に送ってくるそうです。
団地の管理事務所に沢山の『放置自転車』が置いてあります。
履歴書の最後の『希望欄』には「清掃及び資源回収・快適な生活」と書いてありました。
まさに資源回収に成ると私は管理事務所のオバさんに一台、お願いしようかと思っております。
五百円かかるらしいのですが。心配です。
六二歳、まだ青年の様です。
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