第1話

文字数 898文字

 田植え後は、細かった田んぼの稲の列が日毎に太くなり、やがて一面の緑の絨毯になる。
 この頃になると農家は、稲の防除・防虫・殺菌などの農作業に追われる。圃場(ほじょう)(*農作物を栽培するための場所)に分け入って手動で行う農薬散布は重労働で、丸1日かけても 2.5 ha(ヘクタール)ほどしか散布できないと聞く。
 そんな中、庄内ではラジコン操縦の無人ヘリコプターを使った農薬散布をよく見かける。ラジコン・ヘリと言っても模型のヘリではない。機種にもよるが重量は 75~100 kg、4サイクルエンジンで稼働し最大24ℓの薬剤または 20 kg の粒剤を搭載できる。全長(回転翼径)が約 2.5 mほどあり、軽トラックの荷台にぎりぎりに収まるほどの立派なヘリだ。
 操縦には資格が必要で、ほかに連絡係、見張りなどの補助者も要る。約6分/1ha で農薬を散布でき、広い田んぼに最小限の農薬を効率よく均一に散布できる。難点はラジコンの操縦が難しいことと、機体の価格が中古で 500万円以上、新品だと 1,000万円~ 1,500万円と高価なことだ。
 ラジコン・ヘリを操作している農家の小父(おじ)さんの目は子供のように輝き、仕事の顔ではない。完全に少年の顔になっている。
 報告されているラジコン・ヘリの事故には、墜落、接触、衝突のほか、飛行時における機体の紛失がある。この機体の紛失とは、ラジコン・ヘリが制御不能になってどこかに飛んで行ってしまうことらしい。嗚呼、1,000万円以上もしたヘリが、操縦不能になって(はる)か彼方に飛んで行く。想像しただけでも悲しくなる光景だ。
 写真は、2016年8月に庄内で撮影した農薬を撒布するラジコン・ヘリだ。

 庄内でも一昨年、ラジコン・ヘリが日本海を朝鮮半島方面に飛び去って行ってしまったことがあったらしい。原因はラジコン操作にある。ヘリを鉄塔より高く飛ばすと、ある高さから突然電波が届かなくなって制御不能になるのだそうだ。ん~、成る程。
 これは先日の外来で、ラジコン・ヘリに詳しい患者さんから聞いた話だ。
 ところで、自分は外来で一体何をやってんだろうねぇ…?と思う。

 んだの。
(2022年7月)
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