第1話 久方の雲

文字数 382文字

「そうか。死んでしまったか……」
 『神保修理』切腹の報を受け、無力感が全身を貫く。

(守ってやれなかった)
 
 頼母(たのも)は、胸が潰れるような思いと、行き場の無い苛立ちを抱え、きつく唇を噛んだ。

 友人の神保修理は、幕府より京都守護職を拝命した藩主松平容保に同行し、京都へと赴いていた。

 かねてより不戦恭順を説いていた修理は、将軍の慶喜公の大坂城脱出、鳥羽・伏見の敗戦を招いた張本人とされ、会津藩内ばかりか、幕府方の全藩より責められた。
 そして、幽閉され、弁明の機会も与えられぬまま自刃したという。

「岳飛にならずともよかったものを……」
 届かない言葉は、寒風に乗って舞い上がった。
 
 頼母は、無念のうちに散った友を想いながら、澄んだ空を眺めた。
 小さく白い積雲は風に煽られ、ゆらゆらと形を変えていく。

(あらゆるものが常に移り変わってゆく。掌に留めておきたい大切なものでさえ)
 
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