第11話 発見④

文字数 781文字

 真っ直ぐに新刊の並べられている小説のコーナーへと向かう。
 しばらくどの本を買おうか吟味していると、明るい文字のPOPが目に留まる。そのPOPが紹介している本を手に取ってみる。そうしていると綾乃が傍へとやってきていた。

「こんにちは」

 綾乃はにっこりと微笑みながら楓に声をかけてきた。楓もつられて笑顔になる。

「こんにちは。昨日はお電話ありがとうございました」

 お礼を言うと綾乃は恥ずかしそうに俯いてしまう。そんな綾乃の表情を、楓は自分だけのものにしておきたいと思ってしまうのだった。
 そんなことを考えていると、綾乃がおずおずと言葉をかけてきた。

「その新刊……」
「あぁ、これですか? POPが面白そうだったのでつい」

 楓の言葉に綾乃が恥ずかしそうに口を開いた。

「そのPOPを書いたの、実は私なんです……」

 その言葉は楓にとっては意外ではあったものの、もう一度よくPOPを見ると納得もしてしまった。
 綾乃らしい可愛らしい文字と、要点だけを簡潔にまとめてあるPOPはしっかりと本を際立たせている。

「沓名さんがおすすめしてくれているのなら、きっと面白い本なんでしょうね」

 嫌味に聞こえないように、柔らかな声音を意識して言う楓に、綾乃は、

「良い本でした。日本語の美しさとユーモアの合体と言った感じです」

 そう言う綾乃は本当に本が好きなのだと分かる、真っ直ぐな目をしていた。

(日本語の美しさユーモアの合体、か……)

 楓は興味を引かれて、その本を購入することを決めるのだった。

「沓名さん、今日はこの本を買っていこうと思います」

 楓の言葉に綾乃はぱぁっと顔を明るくさせた。

「ありがとうございます!」

 そう言って頭を下げる。そして、楓を連れて綾乃はレジへと案内した。
 後は会計を済ませるのみである。楓はこれからの物語にワクワクしながら、綾乃との書店内での(わず)かな時間を楽しむのだった。
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