第1話
文字数 3,313文字
とある沼のほとりにある公園の小さな広場。その端には、古代メキシコの神を象った銅像が立っている。
風の神だと言われるその像の前の小道を、ステッキ片手にひょうひょうと歩く、背の高い男が一人。
真冬だというのに着流し姿で、うっすらと全体が透けたようなその男に、ふと目を留め、像の後ろから立ち上がる影が一つ……
これは、良く晴れた冬の日の午後、沼のほとりで取り交わされた、小さな問答のお話。
この地には、私の遠い血縁者がいるらしいのです。もう100歳以上は年が離れてしまいましたが。
貴方様は、私をその子と間違われたのやもしれませんな。知人の話では、背格好をのぞけば、瓜二つと言ってよいほど似ているそうですから。
どうか無礼をお許し下さい。
そういえば毎年、供物が少なくなる時期があったような気もするが、書記に出会ってこの姿を得るまでは、胡瓜のことも、河童のことすら知らなかったこの私だ。どうにも
そこで人々は、土地の神々に旬を迎えた美味なるものを供え、ほどよい雨を願うのです。
貴方の神像に胡瓜を供えるのも、その一環であるのでしょう。河童は親しみやすく、且つよく知られた水の神ですからな。
一陣の風がやって来て、ひととき渦を巻き、ラクウショウの梢へと吹き去っていった。
風の神は静かに神像の台座に腰を下ろした。その足元では、小さなパンジーがひと群れ、やわらかな午後の日に照らされていた。
次はまた、別のお話……