伝説の武器防具・雄烈栄の視点

文字数 2,735文字

 レイとホールは俺たちと友好的に話してくれた。二人も伝説の剣を探しに来たという。しばらく一緒にパーティーを組むのにも乗り気のようだ。


 奥に進むと、地面に剣が刺さっていた。しかも2本。その上に「伝説の剣」と書かれたパネルが掲げられている。

これが伝説の剣だな

そう書いてあるから間違いない

そう書いてある事で伝説の剣っぽく見えなくなってるんだけど
 さすがレイ、ギーテルのわかりづらいボケに適切にツッコんでくれる。
伝説の剣っていったらこんなふうに地面に刺さってて、剣にふさわしい者だけが引き抜けるもんだろ

どう見ても伝説の剣だよな

どっちも伝説の剣なのー?
多分1本は(わな)
 ホールは警戒して手を出せないようだ。でもどんな罠でも、俺のHPなら持ちこたえられるだろう。
俺が引き抜いてみる
 俺は左側の剣の()をつかんで引き抜こうとしたが、びくともしねえ。レベル99の俺の力でも抜けねえということは、魔法の力か何かで食い込んでやがるな。
こっちは抜けねえな

もう1本も試してみるか

 右側の剣の柄をつかんで引き上げると、するすると引き上がった。
こっちは抜けそうだぜ
気を付けろ、モンスターが出てくるかもしれない
 罠に警戒しながらゆっくり引き上げていく。柄を俺の身長よりも高く引き上げたけど、まだ抜けねえ。
ずいぶん(なげ)え剣だな

2メートルはあるぜ

 すると左側の剣の所にいたココロが声をかけてきた。
ねーねー、剣のそばの岩を壊してみたよー

抜けやすくなってないかなー

 なるほど、伝説の剣が抜けねえように魔法の力で抵抗していても、その周りの岩を砕いちまえば抵抗しようが無えかもしれねえ。俺は左側の剣を引っ張ってみたが、まだびくともしねえ。魔力を込めるとか、何かする必要があるのか?


 やっぱり右側の剣をもっと抜いてみよう。刃の部分を注意深く持って上に引き上げていくと、まだまだ上がっていくけど抜けねえ。ついに剣の柄がダンジョンの天井についた。

これ5メートル以上あるぞ!

ぜってー伝説の剣じゃねーよ、これ!

どうやって地面に刺したんだよ!

きっといくつものパーツに分けて持ってきて、刺しながら溶接して繋げたんじゃないかな
私たちをからかうためにわざわざそんなことしたっての?

ほんとくだらない

ねー、岩をもっと壊してみたよー
 ココロに呼ばれて左側の剣のほうを見ると、岩は粉々に砕けていてがれきの間に剣が挟まっているような状態になっていた。
よくここまで壊したな、おい!

なんかもう抜けねえほうがおかしいじゃねーか

 左側の剣の柄を握ると、案の定あっさりと剣が抜けた。
おめでとー!

剣を引き抜いたから、オレツェーは伝説の剣にふさわしい勇者だよー!

いやほとんどお前が抜いたも同然だろ!
 でもまあココロは剣を使わねえだろうし、俺が持っても悪くはあるまい。
まあ俺が使いこなしてやるとするか
でも抜き身で持つのは危ねえな

布を巻いて背負うか?

 布をほどいて剣を出すのって、なんか強キャラっぽくてかっこいいな。
その剣の(さや)はこれみたいよ
 貼り紙に「お持ち帰りの際はこちらの鞘をご使用ください」と書いてある。なんかこんなふうに準備されてると、この剣が安っぽく感じられて仕方ねー!
まあいい、これで俺は世界でひと振りの伝説の剣の所持者だぜ
俺の名が世界に知れ渡るぞ

俺を(あが)(たてまつ)っておくんだな

それはすごい

ちなみに僕のこの矛は伝説の矛だよ

うそっ!

知らなかった!

崇め奉らせてくれ!

伝説の矛の所持者がこんなに知られてないんじゃ、伝説の剣の所持者も有名になりそうにないね
あと、私のこの盾も伝説の盾よ
はは――っ!
 俺はレイとホールに対して深々と頭を下げた。
伝説の矛には敵の防御を無効化する特殊効果があって、()れたどんな物も貫き通すと言われてるんだ
伝説の盾には敵の攻撃を跳ね返す特殊効果があって、この盾を貫けるものは存在しないと言われてるのよ
その伝説って、「矛盾(むじゅん)」の故事じゃねーか!

その矛でその盾を突いたらどうなるんだって話だろ!

実際やってみたらどうなるんだよ!
気になる?
ああ、気になるぞ、そりゃあ
 ギーテルがしゃしゃり出た。
よーし、やってみよう!

俺が矛で突くからオレツェーは盾を持て

嫌だよ!

それでもし盾の効果が嘘だったら俺が貫かれちまうじゃねーか!

はいはーい!

ココロが盾を持つよー

刺されてもきっと治してくれるよねー

 どうしてココロはいつもそう向こう見ずなんだよ。危なっかしくて見てらんねーよ。
ココロじゃ危ねえ

俺が持つ

どーぞどーぞ
 なんかはめられた気がするが仕方ねえ。俺は伝説の盾を持って身構えた。ギーテルが伝説の矛を構え、突進してきた。矛が盾に触れようとした瞬間、矛先が180度回転してギーテルを貫いた!
ぐわあああっ!!
いやああ!

ギーテルしっかりしてー!

 ギーテルに駆け寄るココロを払いのけてレイが駆け寄り、治癒魔法をかけた。大事には至らなかったようだ。
わかったでしょ

伝説の盾は空間をねじ曲げて攻撃を跳ね返すのよ

だからこの盾を貫けるものは存在しない

そして矛と盾は触れあわないから、矛が触れて貫けないものは存在しない

矛盾はしてないよ

 矛盾はしねえかもしれんが、なんつーか、伝説の盾すげえな。俺たちはダンジョンを後にした。
 街に戻り、冒険者ギルドのある酒場でレイたちと食事しながら話をした。
伝説の武器防具には、剣・矛・盾のほかにナイフがあると言われてるんだ

触れたものは全て切り裂く伝説のナイフ

ナイフか

軽いから魔法使いや武闘家も装備できそうじゃねーか

どこにあるんだろうな

 俺は軽い気持ちで言ったんだが、ホールは身を乗り出して声を(ひそ)めて言った。
それがな、伝説によるとこのすぐ近くにあるらしいぞ
どのくらい近くだよ
 そう言いながらステーキをナイフで切った瞬間、ステーキをのせた鉄板が真っ二つに……それどころかテーブルまで真っ二つに切り裂かれちまった!
ええええっ!?
 皆驚いて立ち上がった。テーブルが壊れたので料理は床に散らばった。
オレツェー、そのナイフ何なの!?
知るか、この店のナイフだ!

まさか伝説のナイフって食事用のナイフかよ!

 店員にこのナイフのことを聞いてみても心当たりが無えようで、店員が集まって話しだした。しばらくして店員の1人が告げてきた。
そのナイフですが、ダンジョンからのドロップ品を今日購入したものです
普通のナイフかと思っていまして、まさかそんな危険なものだとは思いもしませんでした
このナイフ、譲ってくれねえか?
ええ、買った値段でお譲りしますよ
食事には使えそうにありませんので、冒険のお役に立てていただければ
 伝説のナイフを手に入れた。……いいのか、こんな手に入れ方で。ココロに装備させておくとするか。
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