ゆらめく、もやもや

文字数 676文字

酩酊に甘えている。そんなことはわかっていたけれど、抵抗する気分にもなれなかった。俺の内側が食パンの白い部分みたいに優しく白くやわらかくなっていく。
俺の前に座っている女の子のアイラインは垂れ目を誤魔化すように、最後に少し跳ねている。
「最近よくきてくれますよね、もしかして、お気に入りの子とかいるんですか?」
わたしだったら、嬉しいんだけどな〜 女の子の顔がふにゃりと弛緩する。よく似合うショートカットの毛先がさらさら揺れている。
女の子の小さな手は、狙いうちするように、でもゆっくりと、俺の手に絡んでくる。
だめだ。
「えっと、どうだろう」
まだわからないかも。そう返すと、そっかあと返した女の子の目がどんどん暗く濁っていくように見えた。優しく絡めてきた手もすっと離れていく。
ああ、あの視線が俺に矢印をつけている。いつも俺が店に入ってから、席に着くまで追いかけてくる、あの視線。
多分、髪の長い女の子のものだろう。あの子のことは、髪型以外何も知らない。目の前の女の子は、その子をよく知っているのだろうか。
なんだか、肺がもやもやする。俺はきっと、ここにいても変われない。
「ごめん、もう時間みたいだから帰るね」
席を立って、少しよろけて、レジに向かう。熱気を帯びた店内の空気が妙に気持ちわるい。
ありがとうございました。店員の生気のない声が投げやりに俺の背中を押し出して、その心地悪さに押されるようにして店からそそくさと出て行った。

誰かを好きになってみたい。そうしたら変われる気がする。でも、もう俺は変わることができないのかもしれない。
街灯が揺れて、通りには誰もいなかった。
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