第2話 遥かな突風

文字数 480文字

 その口の前でバツを作るしぐさは、同じ図書委員の島袋遥夏(しまぶくろ はるか)さんだ。

 島袋さんが、クラスを代表して母さんの葬儀に来てくれた時、ありがたくて、心の中で泣いていた。
 誰にも大切な母さんへの涙を見せたくなかったから。

げー。もしかして島袋か? かわいくしても何もでないからな
 うおお?
 何だ?
 あのばいんばいんの島袋さんと俺が?
私のバスト、返してよ
バスト様を返したら俺が風邪引くだろう?
 俺は、恥ずかしさで、すっとんきょうなことを口走ってしまった。
 傷付けないようにか、島袋さんは笑ってくれた。
あは。何それ
 あの、俺の体で、きゃっきゃされても困るんだけどな。
島袋、メガネ外して……
ん……。いいよ

 うおお!
 俺なのに、頬を染めたりして何か可愛い。
 どきどきして、俺の顔が見られない。
 何てバカなことがあるんだ!
 島袋さんの両手をそっと包むと、とくん、とくん、とくんと鼓動が痛いほどに伝わる。

 島袋さんが目をつむる。

お。チャンス到来?

 がーんだ。
 俺がそんなナンパな訳ないよ。
 まだ、誰にもこの唇を預けたことはないのだよ。

 すると、屋上に突風が吹いた。

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登場人物紹介

綾城創《あやじょう そう》


高一、勿論男子。

いつもは黒ぶちメガネをかけているのだけれども、今日の俺を見るとないな。

それは、俺じゃないからか?

どうしても、衝撃的だった母さんのことを忘れられない。

でも、島袋遥夏《しまぶくろ はるか》さんには、知られてしまったようだ。

島袋遥夏《しまぶくろ はるか》


高一、ばいーんな女子とか言われてしまうの。

もう!

Dカップ女子とか呼ばないでね。

程々だと思うのにっ。

それより、最近塞ぎ込んでいる綾城創《あやじょう そう》くんが心配だわ。

何とかしたいけれども、どうにもならないの。

せめて、切ない気持ちで元気を取り戻したい。

綾城薫子《あやじょう かおるこ》


四十代も後がないレディー。

一人っ子の創《そう》には苦労をかけまいと、小さなスーパーで働いて遣り繰りしてもお財布はいつも薄い。

買い過ぎないように、計算して僅かばかりのお金を持ち、食材のみを買う。

或る日、とんでもないことに巻き込まれてしまう。

一見、ワーキングウーマンと呼ばれがちだが、その実は主婦湿疹に悩む優しい創の母親だ。

夫も健在だが、彼は仕事のみで忙しい。

いすみ静江《いすみ しずえ》


猫にして猫にあらず。

その中の人は、いすみ 静江。

霊長類かも知れない。

普段はママをしています。

好きなことは、物語のお終いにご挨拶に参ります。

そして、レモンティーで乾杯するのであった……!

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