三猿の置物

文字数 2,275文字

プロローグ


その部屋はあらゆるドアに繋がっている。その部屋に初めて入った者は驚くだろう。床には赤い絨毯が敷き詰められ、周りには奇妙なものが沢山置いてある。招き猫やマトリョーシカ、何に使うのか分からない大きな箱、そして日本人形など。どこか風変わりな古道具屋を思わせる不思議な空間の部屋だった。


その男(学生のように見える。)は学校帰りに雪で電車が止まってしまったので、一晩は宿で過ごすことにした。近くの宿を探して、中に入るとおかみさんらしい人が居たので
「今夜、泊めさせて頂きたいんですけど。」
と声をかけると、
「そうですか。部屋は空いているのでどうぞ泊まっていってください。」
と言うので、男はその宿に泊まることにした。
部屋に入ると男は驚いた。床には赤い絨毯が敷き詰められ、一つの敷布団が置いてあったがその他のスペースは色々な物で埋まっていて、まるで古道具屋だった。
中でも男が一番気になったものは、三猿の置物である。それもそのはず。置物の前に札で「絶対に触らないでください。」と書いてあるのだ。人間という生き物はそう言われると触りたくなってしまうものだ。
 だが、その前になんだこの汚ない部屋は。
 男はおかみさんに文句を言いに行こうと思って外に出た。そして部屋の鍵を閉め、受付へ向かった。すると、ちょうど受付におかみさんがいたので、男は前のめりになって言った。
「ちょっと、部屋が汚いんですけど、どういうことですか。」
すると、おかみさんは
「そうですか。それは失礼いたしました。部屋を掃除いたいますので少々お時間いただけますか。」
と言った。男は「そうですか、とは?あの部屋に入った客は九割以上が汚いと思うでしょう」と思ったが口に出すのは気が引けたので、
「はい。良いですよ。」
と答えた。そしておかみさんと男は例の部屋に向かって行き、おかみさんが「失礼します。」と言ってドアを開けた。その瞬間、男は驚きのあまり叫びそうになった。あの部屋じゃなくなっているのだ。普通の和式のいわゆる宿の部屋になっているのだ。
「どのようなところがお気に召されませんでしたでしょうか。」
とおかみさんが聞いてきた時には男は何も言うことは出来なかった。
その後おかみさんと男は何らかの会話をして、男は狐にでも化かされたような気持ちで部屋に入った。
 後に便所に行きたくなったのでトイレに用を済ませて部屋に戻ると・・・
 またあの部屋だ。またあの奇妙な部屋に戻っている。
もう男は気味が悪くて仕方なかったが、宿では泊まっていくことになっているし外に出ようにも寒くて凍えてしまう。仕方がないので部屋の中においてある奇妙なな物を少々見物する事にした。
やはり男は三猿の置物が気になった。「触らないでください」などと言われるとどうしても気になってしまう。
そして、とうとう男はやってしまった。少しだけならバレないだろう、と思い三猿の置物を触ってしまったのだ。男は三猿の置物をいじっていると、ある事に気づいた。この置物、どうも上の部分がパカッと箱のように開きそうなのだ。男はその箱をいじくりまわしている間に箱を開けることに成功した。
中に何が入っているのか、ドキドキして開けてみると中に一枚の札が入っていた。男は「なんだ、お札か。」と思って札を見るとこう書いてあった。
「この部屋の物を見てはいけない。この部屋のことを聞いてはいけない。この部屋のことを言ってはいけない。」
 
 男はなんだか気味が悪くなってきたので、寝る事にした。もちろんすぐに眠れるわけもないのだが。
朝起きると、目の前の様子が少しおかしくなっていた。なんだか、目の前がぼやっとしてよく見えないのだ。本当は電車に乗ってさっさと帰りたいところだが、まるで目の前が見えないので病院に行くことにした。
病院の先生に診察してもらうと、
「もうこれは治らないかもしれないです。」
と言われた。男はあまりの事に絶句してしまった。 意味がわからない。昨日までは普通に目は見えていたし、目に傷を負ったわけでもない。
男は宿に戻って、おかみさんに聞いてみた。
「僕が寝ている部屋、変ですよね。」
 だが、おかみさんは困った顔をして
「いえ、我々はお客様が過ごしやすい部屋を提供できるように努力していますよ。」
 とかえしてくるだけだった。
さて、目が見えないのでは仕方がないので家族に迎えに来てもらうことにした。しかし、家族は遠くに住んでいるのですぐには来れない。近くにほかの宿もないので、仕方なくもう一泊ここで泊まることにした。
その日の夜、男はトイレに行った。その時、男は話し声が聞こえることに気づいた。よく耳をすませるとおかみさんが誰かと話しているようだ。
「今、お客様が泊まっているあの部屋ね、どこか変なのよ。お客様はもう気づいてるらしいけど、私もよくわからない。」
 男はそれを聞いて、やはりそうか、と思ったと同時にとても驚いた。おかみさんも気づいていたなんて。だが、その後は話し声が聞こえなくなってしまったので男はもう寝ることにした。
次の日の朝、男はあくびをしようとすると声が出ない。おかしいと思いもう一回声を出そうとしてもやはり出ない。それどころか耳も聞こえないことがわかった。試しに壁を叩いて音を鳴らしたが聞こえない。あぁ、何ということだろうか。男は何故か声も出ないし目も見えない、耳も聞こえなくなってしまった。


エピローグ


「この部屋の物を見てはいけない。この部屋のことを聞いてはいけない。この部屋のことを言ってはいけない。」
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