What’s done is done

文字数 2,805文字

「If we win today ,we will be in the postseason for sure」
「I understand. Jsut do what you always do.」
まだつたない英語でチームメイトと談笑する。九月に入って一週間が経った。シーズンも終盤戦に突入し、ポストシーズンに進出するチームも目途が立ってきた。翔の所属するチームは現在、西地区で二位、一位とのゲーム差は三だ。リーグでの勝率も二位である為、ワイルドカードでの進出の可能性は高いが、やはり、まだ地区優勝が手の届く範囲にあるのだから優勝して進出する方が気分が良い。翔はスパイクの紐を結びなおし、グローブとバットを手にし、ダグアウトへと向かう。翔は現在、二八歳、MLB三年目の選手だ。翔がここまでたどり着くのには、一筋縄ではなかった。

ドラフト会議のテレビ中継が終了した。甲子園出場経験のない、無名校出身の山下翔にとって、上位指名は期待していなかった。テレビで中継されるのドラフト上位まで、実はその後もドラフト会議は続いている。下位指名から育成枠まで。育成枠でも良かった、どこの球団でも良かった。とにかくどこかに指名されれば、それだけでとても喜んだだろう。だが、ドラフト会議は山下の名前を呼ぶことなく、終了した。あの時の調査書は何だったのか?期待を膨らませながら記入した頃を思い出す。山下の夏は地区予選の三回戦で終わった。相手は甲子園の常連校だった。強豪校相手に二対一。延長のタイブレークで負けてしまった。結果足してその高校は甲子園に出場するのだが、山下はその高校相手に点を取れたこと、そして、取られた点は一点だったことに満足している。もう一点は全て味方のエラーで出塁し、味方のエラーで決勝点を献上した。だから自分のせいではない。失点はしたが自責点ではない、そう思っているのだ。事実内容自体は良かったので、強豪校目当てに来ていた、スカウトの目に留まることとなった。しかし結果として、ドラフトにかかることはなく、プロへの道は遠のいた。

山下 翔 やました しょう 出身地、兵庫県 左投げ 両打 ポジション、遊撃手、投手

ドラフト会議が終わって二日後、担任と監督と話し合いをすることになった。
「山下、今年のドラフトは終了したが、この先の進路はどうする?」
その通りだ。ドラフトにかからなかったのだから、別の進路を探さなければならない。
「何校か大学からも話が来ているが、、、」
監督が話を続けようとするが、少し困った感じで止まる。
「大学の監督からは、うちに来るなら、内野手ではなく、投手として来てほしいとのことだ。それが条件らしい」
大学からの条件は、投手に専念してほしいとのこと。なぜそのような条件になっているのかは山下の特徴的なプレースタイルに関係がある。山下の利き手は左手。なので、当然左投げである。にも関わらず右打ちであった。のちに憧れた選手が左打ちであったこと。周りから左利きなのに右打ちなのはおかしいなどとヤジられたことで両打ちなる。左投げであることから小学生の頃から投手として野球を始めた。当時はサウスポーだと周りから言われ本人も喜んでいたが、投手だけでは試合に出れる機会が少なかった。自分が先発なら良かったのだが、別の子が登板している際にはベンチにいることになる。もちろん継投に備えてブルペンに入ることもあるが、肩をつくるのに三イニングも必要なかった。その時間が嫌でもっと試合に出たかった。監督にそういうと。
「なら外野手で出てくれ、ちょうどセンターを誰にしようか迷っていたところでな。継投するときはそのままマウンドに上がることになるからブルペンには入れないが、それでもいいなら」
山下はその時は嬉しかった。実際にセンターを守ってみるまでは、、、
実際に守るとあまり楽しくなかった。何よりも嫌だったのは右中間や左中間を抜かれる長打の当たり、フェンスに向かって勢いよく向かっていくボールを間に合うわけもないのに追いかけることが嫌だった。その後、中学までは経験だと思い続けたが、中学一年の頃、外野手をやっている人には申し訳ないが、やはり、転がったボールを追いかけることが何か屈辱的に感じて、投手として頑張っていこうと決めた。前置きが長くなったが、山下が内野手としてプレーするのはその直後、遊撃手をしている友人がケガをしてしまった。雨の日に階段で足を滑らせて骨折をしてしまったらしい。大会も近く、代わりをどうするのか部活内でも話題となった。普通ならベンチにいる子をスタメン昇格させるのだが、ベンチにはユーティリティな選手が多かったので、誰がするのかシートノックで決めることになった。監督から
「明日に遊撃手の候補をシートノックを見て決めようと思う。内容はオールファーストとゲッツーを見て決めようと思う。せっかくするのだから誰でも参加して良いぞ」
監督はそういった。部員のほとんどがそれを聞いても笑っているだけで、誰か挑戦する人はいるのかと笑いながら話していた。遊撃手は野球の花形ポジションである。したいと思ってできるものではない。野球をしている人ならそれぐらいはわかるのだ。だが山下は違った。次の日のシートノックの際、遊撃手のポジションに立っていた。周りの人はさぞ驚いた。投手が立っているからではない。左投げの選手が立っているからだ。
「山下――、ほんとにノック受けるのかーー?」
「左投げの遊撃手なんて聞いたことないぞー」
その通りだ、この長い野球の歴史において左投げの内野手はファーストだけである。その理由は様々あるが、主にはスローイングにおいて都合が悪いのだ。
「知ってるよ、だから挑戦するんだ。何事もはじめは誰もしてないことさ。飛行機だってそうだろう、ライト兄弟だって、、、、」
「じゃあ、ノック始めるぞーー」
監督が山下の話の途中で号令をかけた。さえぎられた山下不服であり、周りの部員は爆笑である。そんな中行われたノックだが、ルールは簡単エラーをいた方が負け。つまりスタメンではなくなる。熾烈な争いの結果、山下が勝ち取ることになる。何か申し訳ない気持ちがあるが、お互いに全力を尽くした結果なので、仕方がない、その人の分まで努力するだけだ。このような経緯があり、山下、現在のプレースタイルとなる。
山下がドラフトにかからなかった理由。それは内野手へのこだわり。それだけであった。

「左投げの内野手が受け入れらないこともよく分かります。本当にプロで通用するのかと懸念点も分かります。だけど、自分は誰もしたことないのないことをしてみたいんです。今までもそうしてきたので、」
「それは分かった。だがこの先本当にどうするつもりだ。大学に行かないとなると社会人野球か?」
「いえ、十一月に独立リーグの合同トライアウトがあります。それを受けさせてほしいです。」
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