第4話

文字数 1,032文字

 夜は過ぎて、朝がやってきた。
 荷物をまとめた英覚と茜は出発した。
 朝日が山の向こうから上ってくる。
 茜は前を向いていた。
 英覚は後ろからそんな様子を眺めていた。
 果たして生きて、またここに帰ってこられるだろうか。
「次はどこへ行くんですか?」
「隣町だ。そこでも妖怪が出たらしい」
 彼らは山道を通り過ぎて、昼過ぎに隣町へ着いた。
 そこは様々な商店が並び、活気のある町だった。
 英覚は人々に妖怪の話を聞いた。
 妖怪に殺されたという家があったが、そこはもう誰もいなくなっていた。
 辺りはもうじき日が暮れようとしている。
「この近くの店で夕食を食べよう」
 茜と二人で蕎麦屋に入り、蕎麦を食べた。
 英覚は一瞬、自分の舌を疑った。
 それほど、強烈なうまさを感じた。
「うまいな」
「ええ」
「もう死んでもいい」
「まだ仕事が残っています」
 蕎麦を食べ終えると、彼らは家の中に入った。
 外は日が沈み、夜になった。
 庭に出て、呪文を唱えると、妖怪が現れた。
「お前か。新しい僧侶は?」
「そうだ」
 妖怪が飛び掛かってくる。
 英覚は数珠を握りしめた。
「無間熱光」
 その瞬間、空から強い光が降り注ぎ、妖怪は消滅した。
 茜は英覚の隣で事の成り行きを見ていた。
 そして、地面にうずくまり、涙を流した。
「どうした?」
「もっと早く来てくれていたら」
 茜の涙は地面に落ちて消えていく。
 英覚はその場に立ち、空を見上げた。
 たくさんの星が輝いている。
 雲が浮かんでゆっくりと風に乗り流れていく。
 丸い月が淡い光を放っていた。
 英覚はしばらくの間、空を眺めていた。
 自分の力が死んでいった人を救えたのかもしれない。
 そう思うと、胸がひんやりと冷たくなった。
 小さい頃、両親と過ごした日々が蘇ってくる。
 目には涙が滲んだ。
 茜はまだしゃがみ込んだままだった。
「今夜は宿に泊まろう」
 英覚はそう言って、茜の手を取る。
 茜は涙を拭いて立ち上がった。
「これから先、死ぬかもしれない人を助けないといけないですね」
 茜はそう言って歩き出した。
 英覚は後ろを付いて行く。
 本当にこれでよかったんだろうか。
 そんなことを考えながら、人のいない静まり返った夜道を歩いた。
 茜はしばらくすると元気を取り戻したようだった。
 英覚はそんな彼女の様子を見て安堵していた。
 遠くには山が広がっていく。
 旅をしながら、遥か先まで行かないといけない。
 いったいいつになったら終わるのだろうか。
 そんなことを考えながら、二人は宿へと歩いて行った。
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