第9話近所の老舗和菓子店の親方

文字数 1,102文字

今日の客は、近所の老舗和菓子屋の親方。
午後5時に、ふらりと入って来た。

飛鳥は丁寧に声をかける。
「これはこれは・・・親方」

親方は、飛鳥を見て、ホッとした顔。
「飛鳥君に相談があってさ」

飛鳥は、キャラメルの香りがする紅茶を親方の前に置く。
「私に?お手伝いができるでしょうか」

親方は、その紅茶を一口、美味しそうに飲む。
「これは・・・甘い香りで・・・うっとりするなあ」
「疲れが、すっと飛んで行くよ」
「こういう味を出したいなあ」

飛鳥は親方の前に、マカロンを二つ置く。
「柚子風味と、薄墨餡」
「親方の批評をいただきたいと、姉が言っておりましたので」

キッチンから香苗も出て来た。
少し心配そうな顔をしている、

親方は、「うん?」と言いながら、まず柚子風味を一口。
途端に、ニコニコ顔になる。
「これ・・・西洋のマカロンと言うより、このまま和菓子」
「酸味、甘味・・・いい柚子だね、さすが」
「和三盆も、ちょうどいい」

親方は、そのまま薄墨餡を食べる。
「いや・・・さすが・・・基本に忠実」
「いい餡だ・・・少し軽めは、マカロンの生地に合わせてか」

ほっとする香苗を見て、飛鳥が頭を下げる。
「このソフィア喫茶店限定の品です」

親方は、プッと笑う。
「全く・・・それはそうだよ」
「香苗さんだけで作っているんだから」

香苗も笑う。
「親方のマカロンも食べたいなと、ご指導をいただきたく」

親方は、ますますうれしそうな顔。
「全く・・・煽って来る・・・」
「マカロンも、歴史が古い伝統菓子」
「フィレンツェのカトリーヌ・ディ・メディシスがフランス王室に持ち込んだ菓子」
「500年を超えるか・・・」
「でも、和菓子職人も好きな人が多いし、いろいろアレンジできるし・・・したいけれどね」

飛鳥は、声を少し落とした。
「老舗で新作を出すのは、度胸がいります」
「美味しいだけでは、済まない場合があります」
「品揃えに全く変わりがないのが魅力と、思っている人もいますし」

親方の顔が、それで落ち着いた。
「そこなんだ、飛鳥君」
「それを相談したくてさ」
「新作を出したい、和風マカロンとか、もっといろいろ」
「でもさ、長年のごひいきの客を裏切るとか、それもなあっ・・・て」

飛鳥は、腕を組んで考えた。
「私みたいな若輩者が考えるのは、タカが知れているけれど・・・」
「少しずつ・・・」
「段階を踏んで・・・」
「長年のお客様を呼んで、試食会をして・・・その様子を見て」
「上手くいけば、孫を連れて来る、そんな機会ができる」
「孫にも、古来の・・・本物の和菓子を教える・・・」
「それで、食の世界を広げる・・・」
「ぶつかることなく、スムーズさも大事に」

親方は、筆まめのようで、手帳に飛鳥の言葉のメモを始めている。
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