第三五話 新製品開発
文字数 2,702文字
魔法使いは単に商品を発案したっていうよりも、工房や魔法協会を説得して動かし、試行錯誤を重ねた上で、こうして製品化までこぎ着けたっていうことが本当に評価されるべき部分なんだと思うぞ。労いの言葉をいくらかけても足りないくらいだ。
へへ、なんだか歯がゆい気持ちになるもんだな。
武具講座で大きな利益を叩き出している勇者や、販売から経理事務まで裏方で欠かせない存在になってる戦士だけが『ドリームアームズ』を経営してるわけじゃないってこった。
だけどさぁ~、魔法剣スリーパー一本槍じゃ、そこまで儲かるわけじゃないんだよなぁ……。
いや、魔法使いの言うことにも一理ある。月賦払いを導入してから、合計18本の販売を達成している。そして月末の6本まで計算にいれると、今月の販売成績は合計24本ということだ。本数としては、実はそこまで多くはない。
つまり当月だけで売上見込みは235万2000Gだ。粗利はおおよそ3割といったところだから、70万5600が儲けということになる。そこから販売管理費を抜くとすると……正味の利益はそこまで残るわけじゃないんだ。悪くはないんだが、物凄く儲かるってわけじゃないのも事実だろう。
ただ一つ言えることは、空気を売るために勇者は目一杯稼働してるけど、魔法剣の販売にはまだまだ伸びしろが大きいということだ。それに、あくまで俺たちの本分は武器屋でもある。武具の販売には重点を置くべきだろうよ。
次の製品投入アイデアとしては……剣を雷属性にしたり炎属性を組み入れたりするだけじゃ、いまいち面白味がない。かといって麻痺や毒だと、別に魔法剣スリーパーの睡眠効果で十分じゃないかっていう話でもある。
もう少し販売価格が上がってもいいから、もっとインパクトのある製品を投入していきたいところだが……即死魔法を組み入れたものっていうのはどうだろうな? これこそ本物のアサシンダガーというわけだ。
アサシンダガーはすでに製品化されているものがあるのよ。ただし、そもそもからして高度な即死魔法を操れる魔導師は限られてる。製品化されてるアサシンダガーは中級の魔導師の魔力を封じ込めるのがせいぜいで、低級のモンスターにしか効果を発揮しないのよ。まともな装備を持ってれば、その程度の敵に苦戦するわけもなし、お守りにすらならないわ。
……え? まさかこの私に一本一本、わざわざ魔力を封じ込める作業をしろっていうの? 聖鉄に魔力を封じ込める作業って、数日で1本できたら御の字って話じゃないの。しかも即死魔法、集中力が乱れると下手すりゃこっちが死にかねないし、どれだけ消耗すると思ってるわけ?
わかってるさ……。アタシもやるよ。それだけの労力を注ぎ込むわけだから、さらに高く売ってもいいだろう? 僧侶とアタシの魔力を封じたアサシンダガーなら、正直、1本30万Gでも安いくらいだ。まぁ庶民にそれが判断できるかどうかは別としてだが。
ちゃんとした即死魔法を操れるっていうのは、それこそ本当に一握りなんだよなぁ……。睡眠魔法とは仕事のレベルが違うよ。そこそこレベルの魔導師だと、なんちゃってアサシンダガーになっちまう。品質保証はできないぜ。
オークロードあたりなら瞬殺できるから、実用性としては十分なはずだ。ドラゴンに相まみえるクラスの冒険者ともなれば、そもそもアサシンダガーには頼らないだろうしさ。遠出する商人や遊牧民とかにとっちゃ、一生モノのお守りになるよ。