第1話 路傍に佇む人

文字数 2,473文字

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世の中には不可思議なことがある。

ここに紹介するのは

私の友人の奇妙な体験談だ。

~~~ ~~~ ~~~ ~~~

私は毎朝、始発のバスで出勤していた。

一番前の左の席に座り

バスに揺られながら

外の景色をぼんやりと眺めるのが常。

乗客はいつも四人。

顔触れは同じで

四十代と思われるスーツ姿の腹の出た男性。

大学生らしき長身の男子。

可愛らしい女子高生、そして自分。

お互いに会釈をしたこともない。

皆、他人のことには無関心だという態度で

バス停に並び、

バスに乗ると寝てしまうからだ。

或る月曜日

道端に太った男が黒いコートに身を包み

フードを目深にかぶって

佇んでいるのが見えた。

心にヒンヤリとするものを感じ

思わず目をそらした。 
 
翌朝、気になっていたので

注意して歩道を見ていた。

昨日見た男の横に

長身で細身の男性が、やはり黒いコート、

フードのいでたちでうつむいて立っている。

小さな疑問が頭をかすめた。

朝早く何を待っているのだろう?

水曜日の朝

身じろぎもせずに舗道を眺め続けた。

あの場所に来ると

今日はまた一人増えて三人になった。

背の低い女性が加わっている。

黒いコートとフードで身を包んでいるので

ハッキリとはしないが

若くてしなやかな感じを受けた。

同じ格好の人間が毎朝一人ずつ増えていき

皆じっと何かを待って佇んでいる様子に

得体のしれない不安を覚えた。

何か引っかかる。

何だろうか。

職場に着いてからも

そのことが頭を離れなかった。

午後、はっと気がついた。

あの人達の外見は

いつも乗り合わせる乗客三人とそっくりだ!

なぜよく似た人間たちが

毎朝あそこに佇んでいるのだろう。

いろいろな可能性を考えた。

偶然

似ている三人が何かを待って立っている? 

どっきりカメラ? 

いやいや違う、何だろうか。

自分のそっくりさんも加わるのだろうか?

翌朝、その場所に来ると

やはり一人加わっていたが

自分ではなく太めの女性だった。

四人目はこのバスの中にはいない。

考えすぎかもしれない。

金曜日の朝、五人になっていた。

五人目は自分の外見に酷似している! 

慌てて運転席を見るとそこには中年の女性。

四人目の女性と姿かたちがそっくりだ! 

心臓が凍り付くような恐ろしさで

体を硬くしていると

五人は近くのバス停に駆けていき

ぞろぞろとバスに乗ってきた。

だめだ!

バスに乗るな! 

自分に似た男がすぐ横に立った。

近寄るな! 

頭を抱えてうつぶせになった。

膝ががくがく震えている。

いったい何者だ! 

何のためにこんなことをしているんだ! 

バスが交差点に差し掛かったので

信号機をちらっと見ると

信号はすべてが青になっているではないか! 

何故だ? 

その時、大通りをタンクローリーが

猛烈なスピードでこちらに向かってきた。

危ない!

ぶつかる! 

爆走してくる大型車! 

その運転手の引き攣った顔が見えた。

この記憶が最後だ。


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ここからは、パソコン向けです

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世の中には不可思議なことがある。ここに紹介するのは、私の友人の奇妙な体験談だ。

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私は毎朝、始発のバスで出勤していた。一番前の左の席に座り、バスに揺られなが  

ら外の景色をぼんやりと眺めるのが常。

乗客はいつも四人。顔触れは同じで、四十代と思われるスーツ姿の腹の出た男性、大

学生らしき長身の男子、可愛らしい女子高生、そして自分。

お互いに会釈をしたこともない。皆、他人のことには無関心だという態度でバス停に

並びバスに乗ると寝てしまうからだ。

或る月曜日、道端に太った男が黒いコートに身を包み、フードを目深にかぶって佇ん

でいるのが見えた。心にヒンヤリとするものを感じ、思わず目をそらした。 
 
翌朝、気になっていたので注意して歩道を見ていた。昨日見た男の横に、長身で細身

の男性が、やはり黒いコート、フードのいでたちでうつむいて立っている。

小さな疑問が頭をかすめた。朝早く何を待っているのだろう?

水曜日の朝、身じろぎもせずに舗道を眺め続けた。

あの場所に来ると、今日はまた一人増えて三人になった。背の低い女性が加わってい

る。黒いコートとフードで身を包んでいるのでハッキリとはしないが、若くてしなや

かな感じを受けた。

同じ格好の人間が毎朝一人ずつ増えていき、皆じっと何かを待って佇んでいる様子

に、得体のしれない不安を覚えた。

何か引っかかる。何だろうか。職場に着いてからもそのことが頭を離れなかった。

午後、はっと気がついた。あの人達の外見は、いつも乗り合わせる乗客三人とそっく

りだ! なぜよく似た人間たちが毎朝あそこに佇んでいるのだろう。

いろいろな可能性を考えた。偶然、似ている三人が何かを待って立っている? 

どっきりカメラ? 

いやいや違う、何だろうか。自分のそっくりさんも加わるのだろうか?

翌朝、その場所に来るとやはり一人加わっていたが、自分ではなく太めの女性だっ

た。四人目はこのバスの中にはいない。考えすぎかもしれない。

金曜日の朝、五人になっていた。五人目は自分の外見に酷似している! 

慌てて運転席を見るとそこには中年の女性。四人目の女性と姿かたちがそっくりだ! 

心臓が凍り付くような恐ろしさで体を硬くしていると、五人は近くのバス停に駆けて

いき、ぞろぞろとバスに乗ってきた。

だめだ! バスに乗るな! 自分に似た男がすぐ横に立った。近寄るな! 頭を抱え

て俯せになった。膝ががくがく震えている。

いったい何者だ! 何のためにこんなことをしているんだ! 

バスが交差点に差し掛かったので信号機をちらっと見ると、信号はすべてが青になっ

ているではないか! 

何故だ? 

その時、大通りをタンクローリーが猛烈なスピードでこちらに向かってきた。

危ない、ぶつかる! 爆走してくる大型車! その運転手の引き攣った顔が見えた。

この記憶が最後だ。
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