6-10 いたわり

文字数 1,195文字

 星弥(せいや)!気がついたんですね?気分は?
 うん……なんか、まだちょっとボーッとする──


 えっ!?何あれ?

 ライが(ぬえ)化したんです。貴女への仕打ちにとても怒った後──
 ええ?なんで?──あれ?なんか周りが変
 お兄様が貴女の周りに結界を張りました。危険ですから動かないように
 どうしてわたしだけ!?


 ねえ、あれは本当に(ただ)くんなの?

 そう、です……
 鈴心(すずね)は俯きながら答える。絶望に塗れた顔で。

 

 そんな痛々しい鈴心(すずね)の姿を見た星弥(せいや)は、結界の壁をまるでガラス窓を叩くようにドンドンと打って皓矢(こうや)に訴えた。

 兄さん!出して!わたしをここから出してよ!
 星弥(せいや)!じっとしていなさい!
 兄さん!(ただ)くんが、(ただ)くんが泣いてる!


 苦しいって泣いてるんだよ!

 ……ガッ、アァ……
 星弥(せいや)、わかるんですか?
 すずちゃんにはわかんないの!?


 周防(すおう)くんはわかるんでしょ?


 ねえ、泣いてるよ、側にいてあげなくちゃ……

 何なんだよ、お前──
 どうしても破れない結界に頭を押しつけて、星弥(せいや)がその名を呼ぶ。
 蕾生(らいお)くん……
 ガアアァ──
 ライ──?
 (はるか)が注視していると、(ぬえ)の目が真っ赤に光り、皓矢(こうや)にかけられた術を破った。
 アアアアッ!!
 ──しまった!
 皓矢(こうや)は次の術を発動しようとするが、(ぬえ)の怒りの咆哮はそれをたやすく跳ね返す。
 オアアアアッ!!
 (ぬえ)は咆哮し続け、身体中の毛を逆立てている。

 

 皓矢(こうや)の危険を察知した青い鳥は星弥(せいや)の結界を解き、すぐさま皓矢(こうや)の下へ飛んだ。その青い大きな羽が主人を壊されていく壁の破片から守る。

 

 (ぬえ)は叫び声だけで後方の壁を破っていた。上辺が剥かれるとガラス張りの水槽が顔を出す。

 アアアアアア──!
 それは詮充郎(せんじゅうろう)が万全を期した防弾ガラスだったのだが、いとも容易く割れた。

 その中から(ぬえ)の遺骸が二体、(ぬえ)となった蕾生(らいお)を取り巻くように宙を彷徨い始める。

 なんと──!
 目の前の光景に詮充郎(せんじゅうろう)は目を見張った。

 二体の遺骸は、(ぬえ)を囲みグルグルと回った後突然弾けて跡形もなく消えた。床に石のようなものと何かの破片が乾いた音を立てて落ちる。

 ガハアッ──!
 残された(ぬえ)は咳き込むように息を吐いた。その口元から同じような鋭い形の石が飛び出して床に落ちた。

 その何かはわからない三つの物体がチカッと光った次の瞬間、(ぬえ)の身体が金色に光り始めた。

 あれは──
 ハル様!ライが!
 え──
 それまで禍々しいほどに漆黒だった毛並は全て金色に、瞳も黄金に煌めき、まるで気高い狒々(ひひ)のように穏やかな表情で立つ(ぬえ)の姿があった。
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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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