第3話 デュラはん、熊倒せた

文字数 3,046文字

デュラはんには神の御業がほとんど効かなかった。
夜のうちにこっそり村の教会に忍び込ませたけど、本来妖精やあやかしが入れないはずなのに普通に入ってきた。静かでええとこやねってそいう問題じゃないだろう。
デュラはん用に倉庫を用意した。体が休む用の簡易ベッドと頭用のクッション。至福やわぁ~ってなんで全く動じないのかな。ともあれ僕はデュラはんを村の教会に匿うことにした。同僚から逃げなくてよくなったって物凄く感謝された。

デュラはんは昼は部屋でごろごろしていて、夜は村の周りの野獣や魔物を狩ってもらう。一度デュラはんに魔物を狩るのに抵抗がないか聞いてみたが、なんで? と逆に聞かれた。同族意識とかないのかな。まあオークと妖精だと全然違うか。
強い魔物が出たという周辺の陳情を受けて恐る恐る討伐をお願いしたけど、難なく倒してきた。やはりユニーク個体なんだろう。恐ろしく強い。

僕はデュラはんの討伐実績を僕の功績として教区の教会に送った。僕が自分の身を守るにはやはり力を示すのが一番だ。僕を狙ったと思われる暗殺者はいつのまにかデュラはんが捕まえていた。デュラはんの威圧で彼はペラペラと教区長に依頼されたと吐いた。
口封じをしようとしたら、デュラはんに、かわいそうやん、と止められた。でも僕が生き残るには教区長に情報を持っていかれたら困るんだよ。デュラはんは、人間はなんか大変なんやね、と言って死体を森に捨てに行ってくれた。森に捨てれば森の野獣が始末してくれる。
何か、僕の方が魔物みたいだ。
その後も何人か暗殺者がやってきたが、そのうちこなくなった。

普段のデュラはんは、面白い人だった。
僕の知らないようなことを色々教えてくれる。二次方程式という高度な計算術式や四点農法とか誰も知らないような知識を色々。デュラはんは知識チートの常識や! とかよくわからないことを言っていた。
デュラはんの言うことはどこまで本当か嘘かもわからない。他の世界から来たという。魔物って突然現れることがあるけど、どこか別の世界からきているのだろうか? けれどもデュラはんの言う技術のおおよそは実際に効果があった。草をはやして収穫が増えるとか意味がわからない。
かわりに僕はデュラはんに文字を教えたり人間の生活について教えた。デュラはんはどれもものすごく吸収が早かった。いつのまにか村人の間にもデュラはんのことが知られていたけど、いつのまにか受け入れられていた。

100人程度の小さな村だ。外敵が不自然にへり、朝おきると畑が耕されていれば嫌でも気が付く。
力仕事を次々とこなして外敵を駆除するデュラはんは、最初は村人に恐れられていたけれど、いつしか村のみんなを守り、守られる存在になった。
誰か見知らぬ者が村を訪れようとするなら、随分前からその情報はいの一番に教会まで届けられ、デュラはんは倉庫にこもってゴロゴロした。一度はその話を聞いた子供がデュラはんの頭を隠す遊びを初めて、村人総出で肝が冷えた。
そんな時でもデュラはんは、ここは天国や! と言ってにこにこ笑っていた。僕が村に溶け込めたのも明るいデュラはんのおかげもあると思う。
デュラはんと一緒にあの湖に釣りにいったり、散歩したりもした。5年もたつとデュラはんはすっかり村の住人になった。

そういえばデュラはんは抹茶パフェというものが食べたいらしい。
でも妖精だからかデュラはんは食事が摂取できない。前に固定観念だってがんばって食べたけどげーげー吐いて、気持ちじゃなくて体のつくりの問題だと納得したそうだ。それでも1口食べたいと言う。
そうすると聖水は気持ちの問題なのだろうか。納得がいかない。
そんなどうでもいい話を、毎日僕らは食事時にする。
デュラはんは食事はできないけど机の上に頭を置いて、ずっと喋っている。5年の間にデュラはんは僕のなかで家族みたいなものになっていった。
デュラはんは本当に魔物なの? という気分すらする。でも人間は頭と胴体が離れてないよな。

そんな平穏な日々に終わりを告げる手紙が届いた。
教区からの手紙だ。僕への諮問と管轄替えの話。
デュラはんの知識でこの村の収穫量は倍増している。僕を追い出して教区の上層部かどこかの貴族がこの村を接収するつもりなのだろう。これまでこの村は開拓村だから決まった人頭税を納めればよかったけど、おそらく接収されて貴族の所領になると自由は失われる。民をどう扱うかは領主の自由だ。
そしてこのあたりの領主は著しく評判が悪かった。もともとこの村の村人はその領主から逃げて新しく村をつくった人たちだ。
僕は村長と話し合った。全員で村を捨てて新しい村を作るというのも手だけど、老人や子供も一定いるから逃げ切るには一定の武力が必要だ。戦力の見通しがつかなければ実行はできない。

だからデュラはんにお願いした。ヘルグリズリーの討伐を。
あれは本来人里には降りてこない古くからの山の主だ。
大昔に教区で調査をしたけど、最精鋭で集団で相手取っても最終的に討伐できないという結論となり、被害が少ないことから放置されていた魔物。一般的なデュラハンでは恐らく太刀打ちはできない。
もしデュラはんが1人で討伐できたなら、デュラはんに勝てる者はそうそういないということだ。ここの村人を守りながら逃げることができるだろう。
負けてもデュラはんはヘロヘロ戻ってきそうな気はするけど、そうしたら違う方法を考えないといけない。
そう思って、僕はその晩は寝つけず夜明け前に村の入り口でデュラはんの帰りを待っていた。うっすらと東の空が明るくなったころ、デュラはんの体の方が大きく手を振りながら何かを引きずり帰ってきた。
あれ? 頭は? と思ってると、引きずられていた物の上に頭が転がっていた。

「デュラはん無事でよかった!」

思わずかけよってデュラはんの頭に抱き着く。
デュラはんの頭は土で汚れていて、激戦を予想させた。

「ボニたん! やっつけたよ! めっちゃでかかった。皮高いんよね? でもこれゴワゴワして獣臭い。これでええんかな」
「皮なんてどうでもいい。あとで聖水できれいに頭洗ってあげるね」
「ほんまに!? やった! ひゃっふぅ! 自分で洗たら指がシュワシュワして変な感じやねん」

どうでもいいと言ったけど、改めて広げられた皮を見る。戦慄する巨大さ。
村はその皮でお祭り騒ぎになった。こんな見事なヘルグリズリーの皮なんで国宝級だ。しかも損傷は軽微。頭部、それから胸部と背中に少しくらいで乏しく、とても綺麗な状態。デュラハンは鞭しか使えないはずだけどどうやったんだ?
うまく貴族の賄賂にでも使えると良いのだけど。

ああ、でも本当に帰ってきてくれてよかった。しかも勝って帰ってきてくれた。少なくとも村人が追っ手を追い払いつつ逃亡することはできそうだ。
教会の隅の洗い場で気持ちよさそうに鼻歌を歌うデュラはんの頭を洗いながら、どうやって倒したのか聞いたけど、驚きの連続だった。
どうしてそんな発想ができるんだろう。確かに素振りで体を鍛えるためとか、武器として使わなければ適性がなくても剣や槍を持つことはできる。でもそれを罠に使うという発想はない。
だからぼくらはスキルのある技術をひたすら学ぶ。

「みんな頭固すぎるねん」
「デュラはんにはそうなのかもしれないけど」
「あ、もちょっと右のほうかいて? そうそう、あぁ~至福~。一仕事終えた感~。」

かなわないな、もう。
奇麗に泡を落として清潔な布で拭いて櫛を通す。黒衣の体はその辺に腰かけてぼんやりしている。
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