第2話

文字数 876文字

 猫型ペンスタンドが我が家にきて、はや幾日。

 若宮さんを起こすたび目に入るそれのせいで、ボクは憂鬱な気分を過ごしていた――が、今は違う。今夜のボクは、意気揚々とそのペンスタンドと向き合っている。ちなみに若宮さんは入浴中だ。

 若宮さんを起こすたびに、目に入るこれをどうするか……悩みに悩んだ結果、ボクはフルムーンへ通うことに決めたのだ。時間の許す限りフルムーンへ通い、できるだけ「月」と「ウサギ」のペンスタンドを手に入れ、それを使い猫型ペンスタンドを覆い隠すことを思いついたのである。ようは、見えなければいい。猫型ペンスタンドを中心に置き、他のペンスタンドで囲ってやれば、猫型ペンスタンドが目につくことはないはずだ。目につくのは、ボクの用意した他のペンスタンドになる。それに気づいたボクは、さっそくフルムーンへ足げく通った。一人で食べきる自信がなかったため、友人や彼女にも協力してもらい、短期間に同じ店へ八度も通った。そうしてキャンペーン最終日の夜。ボクは無事、合計八個のペン型スタンドを手に入れることに成功したのだ。

 ボクは手に入れたそれらを、若宮さんがお風呂に入っている隙に飾ることにした。ベッドサイドのテーブルの上には、あの日から猫型ペンスタンドが鎮座している。ボクは猫型ペンスタンドを手に取り、テーブルの空いた広い場所へそっと移動させる。そして、それを取り囲むように月とウサギを交互に並べた。すべて並べ終え、少し離れた場所から確認すると、予定通り「猫」は覆い隠され「月」と「ウサギ」が一番目についた。これで憂鬱な気分に悩まされることは、もうないだろう。ボクはその日、久しぶりに安心して眠りにつくことができた――が、翌朝。

 若宮さんを起こしに行くと、ペンスタンドは一直線に並べ直されていた。しかも、センターには猫が鎮座している。短期間で何度もフルムーンに通い、たいして好きでもない甘いパンケーキを飽きるほど口にし、やっとの思いでペンスタンドを手に入れたというのに……それなのに、猫がセンターに鎮座している。

 ボクの努力は泡となり、完全に消え去った。
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