第3話

文字数 2,960文字

  「堀内聖汰!」いきなり名前を呼ばれびっくりして起き上がると、目の前にキラキラひかるプラチナブロンドの髪をしたこの世のものとは思えないほど美しく、不思議でどこか儚げな雰囲気を感じられる少女が立っていた。

「堀内聖汰ですね?」
「え?あ、あなた…は?」
「私は…クリスティーナといいます。」
「ク、クリスティーナさん!!ほわあ〜」あまりの美しさに見惚れていると彼女が不思議そうに俺の顔を覗き込んでいった。
「??どうしたのです?私はあなたの願いを叶えます。」
「え!?願い?」
「そうですよ?さあ、なんでも言ってごらんなさい?」そう言って彼女は、にっこり微笑んだ。
その笑顔があまりにも美しくて俺の彼女への警戒心は段々とほぐれていった。
「えっと、お、俺はどこか違う世界、今まで俺がいた世界でない場所に行きたいっす!あとは…その…イ、イケメンに、なり…たい」最後の方は、ほとんど聞こえないくらいの小さい声だったが、クリスティーナさんは、ちゃんと聞き取ってくれたようだ。

「堀内聖汰。あなたの願いを叶えましょう!」……!やった!!
「ふふっそんなに嬉しいのですか?」おっと、俺は思わずガッツポーズをしてしまっていたようだ。
「あ、えっと…すみません……」

「ふふふ、一つ目の願いは簡単ね、私の王国がぴったりだもの!」
「へ?あなたの王国?」
「そうよ、私の王国。私はその王国のクイーンなの」
「は、はあ」

「さてと、私はあなたの願いを叶え、あなたが行きたいと望む世界へ連れて行く義務がある。でもその前にちょっとした問題があるの、ここへくる大概の人は自分のいる現実世界では、もう生きられなくなってこっちへ逃げてくるから、その現実世界に未練なんかこれっぽちもないのよ…だから私の力だけで願いを叶えることができる。でもね?あなた、もといた世界に何か未練があるでしょ!それを解決しないことには、私はあなたの願いを叶えられないわ」

「え?えっと…未練、ですか?」いきなり未練と言われても思いつくことがない。
「ええそうよ!未練がなんなのかさえわかれば私がその問題を解決してあげられるから」
「そ、そっすね…未練」
「ね?何か思い当たることは無いの?」
「お、思い当たること?う〜ん、あ!もしかして宿題をやってないからかな…!」それらしい答えが見つかったので、クリスティーナさんにそう伝えた。
「まあ!あなた宿題やってなかったのに寝たのね!?」
「え?あー…」な、何も言えん…
「まあいいわ…今から宿題をあなたのいた次元から持ってくるから」そういうと彼女は何やらぶつぶつ唱えた。
気づくと目の前に昨日の宿題があった。
「さ、解いて」
「あ、はい…」とはいったものの全く分からん。
ただただひたすら宿題と睨めっこを続ける俺を見てクリスティーナさんがとうとう痺れを切らせて言った。
「はあ、あなたその問題わかんないんでしょ?私が解いたところで別に問題はないから…ほら、貸して」彼女が宿題に少し手で触れただけで全部の答えが現れた。
「うえええええええええええええ!?」思わず発狂してしまった。
「え?ちょ、あなた大丈夫?」
「はっ!すいません!!」
「ま、まぁ…いいのよ…それより、まだ未練が消えてないようよ、あなたの未練は宿題ではなかったのね、まあそうよね〜あんなに勉強できないあなたの未練が宿題だなんてこと…ふふふ」え、なに?今俺馬鹿にされてた??
「さあ、他に思いつくことない?」
「え、えと…ペットに餌やれてないっス」そういうと彼女がペットに餌をやってくれた。

しかしそれでも俺の未練は無くならなかった。
「う〜ん…なぜかしら、」俺と彼女はその後何度も思いつく限りのことをしたがやっぱり俺の未練は無くならなかった。
俺の未練だと思われることはもうないように思えた…まぁ、あと一つを除いての話だけど。

「ダメね、本当にもう思いつかないの?」
「え、えっと…あの、聞いたら笑うかもしれないっスけど…」
「うん、なあに?」
「もしかしたらなんすけど、夕飯のカレーライスをおかわりしてないからかな〜なんて思ったりして、あはは」やばい、いってしまった!恥ずかしいいいいいい!!食いしん坊だと思われたあああああああああああ!!
「……」ああああああああ!!何にも言わないのが一番怖い!
「なんで…」
「へっ…」
「なんでもっと早く言わなかったの?それよ!きっとそうだわ!それだわ!!」彼女はあっという間にアッツアツの美味そうなカレーライスを俺の前に出した。
「さあ召し上がれ」
「は、はい!いただきまーす!」まずは一口パクッ………「うんまああああああああああああああ!!!!」な、なんだこの異常なほどの美味しさは!?感動する!!
「ふふっどうやらあなたの未練はカレーライスだったみたいね」
「そ、そうだったのか…」確かに俺はカレーライスのおかわりがしたくてたまらなかった。
でも、あの気まずい空間に居続けるのはいやだし、しょうがなく一杯で我慢したのだ。


そのあと俺は満足するまでカレーライスをおかわりした。

「ごちそーさまでしたー!」
「ふふふっあなたの未練は無くなったわ。さあ願いを叶えましょう」
「ファ、ファイ!」
「まずはあなたのなりたい見た目にすることからね…ふふ、さあ立って!もう少しこっちへいらっしゃいそうよ!近くによって…そうよ、そう…私の目をのぞいてごらんなさい。何が見えるかしら?」
「え?えっと……!?な、なんだか物凄く綺麗な少年があなたの目の中にいます!こ、これは誰ですか?」
「ふふふ、あなたよ」
「へっ?」
「これがあなた、そう、美少年になったあなた。さ、これでようやくあなたをあなたが”生きたい”と願う場所に連れて行けるわ」
「は、はあ…」

「ふふ、これは私の国がぴったりね。さあもう時間がないの急いでほら…」そう言って彼女は俺の手を引っ張った。少しだけ暗闇の中を歩くと先の方にうっすら灯りが見えてきた。

「さあ、ここよ…ほらあの灯りが見える?」
「はい」
「あの灯りに向かって歩いて行きなさい。きっと何かが見つかるでしょう。はっ!そうだわ大事なことを言うのを忘れてた。元の世界に戻りたくなったら私を探しなさい。いいわね?さあ!行きなさい!」
彼女に促されるがままに俺は灯りの方へ歩いていった。

さっきいたところから灯りまではそう遠くないように見えてたのになかなか辿り着けない……
もう数十分も歩いたんじゃないかと思う頃ようやく灯りの正体が分かるくらいのところまで近づけた。それは扉だった。俺の部屋の………え?…俺の部屋??取手にかけた手を離そうとした時には遅かった。

俺はあっという間に扉の中に吸い込まれ、気がつくと自分の部屋の前に廊下に尻餅をついていた。
しかも、とおるの目の前で…

「お、お兄ちゃん!?大丈夫?」
「え、あ、ああ、」急いで立ち上がり、もう一度自分の部屋の扉を開けてみたが、中に入ってもさっきの暗闇はなかった。
「行けなかったんだな…」
「は?」とおるが不思議そうに顔を覗き込んできた。
「へ…?あ、ああ大丈夫…」
「マジで大丈夫なの?」
「大丈夫だってば…」

異次元に繋がっているはずのドアを開けたら元いた世界に戻ってきてしまった…
残念なはずなのに、なぜかホッとしている自分がいる。
やっぱり俺にはこっちの世界の方が合ってるのかもしれない…そう思った。 
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登場人物紹介

堀内 聖汰(17)

堀内 徹

マスチェル(17)

クリスティーナ(?)

レベッカ(14)

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