第1話

文字数 933文字

 飛行機の羽田―庄内便は飛行中によく揺れる。特に冬は強風、積雪、視界不良など飛行には劣悪な気象状況で、欠航や着陸できない場合は羽田空港に引き返す条件付き飛行が多々ある。
 ガタガタガタガタ…。飛んでいる飛行機の機体が激しく揺れる。窓から見える主翼はグアングアンと釣り竿のように(しな)り、エンジンが今にも落ちそうに主翼にぶら下がっている。その時すかさず流れる客室乗務員(CA)のアナウンス、「只今、気流の関係で機体は大きく揺れていますが、飛行には影響ありませんのでご安心下さい。」
 これを聞いていつも思う。CAにはこれ位なら大丈夫だという根拠が何かあるのかなあ。機体が揺れて墜落したことを体験したらここにはいない筈だし。もし、墜落したら「あの時、大丈夫だ、安心しろと言ったじゃないか。」とCAに食って掛かる乗客もいないだろう。かといって「揺れて私も心配です。」とも言えないし…。

 ある日の外来で高血圧、脂質異常症で通院しているお婆さんを診察した。その日は3~4か月に1度の定期的な検査の日だった。お婆さんは杖を突いて歩いてはいるが、胸の聴診所見に問題なし。胸部レントゲン写真、心電図も正常。採血の結果も異常値なし。心臓超音波検査の結果も弁膜症もなく心機能は良好だった。
 「検査の結果、異常所見はありません。診察結果も大丈夫。今日は走って帰ってもいいですよ。」と、太鼓判を押した。お婆さんは喜々として帰って行った。
 それを聞いていた看護師が診察後、「先生、本当に患者さんが走って帰って何かあったらどうするんですか?」と心配そうに尋ねた。
 「大丈夫。先ほどの患者さんは凄く喜んだが杖歩行なので、言われても走って帰ることはしませんよ。」もちろん自分は患者さんを選択して言っている。
 言葉には「嘘も方便」の嘘の一つ手前があると思う。全くの嘘ではないが、その状況では必要な、あるいは効果的な言葉だ。それは日々進歩している人工知能(AI)では決して理解できない「人」の言葉だと思う。

 さて写真は2016年7月に撮影した羽越本線の特急「いなほ」である。

 この頃は稲が育ちまさに「緑の絨毯」の表現がぴったりだ。
 庄内が生気にに満ち溢れ、思わず走り回りたくなる。
 んだんだ!
(2019年7月)
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