第1話

文字数 955文字

おいしいものが食べたい。
イイ女を抱きたい。
もっとお金を稼ぎたい。
多くの人に認められたい。
カッコいい車に乗りたい。

欲望があってこそ人は生きるのだ。
それは間違いないが、程々を知り、それを幸せと呼ぶことも大切なことだ。
欲を出し過ぎた人間は大きなつづらを持って帰ったりして、昔からロクなことがない。

誰しも一度は経験したことがあるのではないか。出会ったばかりのこんな不毛なやりとり。
女「あなたって何月生まれなの?」
男「俺?8月だけど…」
女「ウソ!!私も8月生まれ!何日?ねえ何日!?」
男「えっと11日」
女「あっ…そうなんだ…私20」
男「へえ…けっこう近いね…」

何日かを尋ねた時と期待を外された時の女の感情の落差たるや。
一方的に期待され、100%相手の責任で盛り下がった会話をなんとか取り繕う男の哀愁たるや。
1日違いとかちょうど1週間や10日違いならまだ救いがあったものの、こんな質問をしてくる人間にそんな救いが訪れるはずもない。

この女性が期待していた答えについて考えてみる。
人間に性欲があるならばどんな日でも誰かしらは性交渉をしているはずで、どんな日でも均等に子供が産まれると仮定するとだ。
誕生月が一緒であるという確率は、およそ12分の1。12人の人と出会えば1人は自分と誕生月が一緒であると言える。
これは8%に相当する。どう思う?
天気予報で「降水確率10%」と言われて、傘を持って出掛けるだろうか?その出先で雨に降られた記憶があるだろうか?
そう考えると8%だけでもなかなかの確率だと思わないか?
この上に日まで同じを求めるということはつまり、難易度がを30倍に跳ね上がるということだ。
365分の1。0.27%
あの飲んでも大して酔っぱらいもしないビールに含まれるアルコールが5%。そのビールを20倍の水で割ってできた飲み物に含まれるアルコールと同じくらいの話をしてる訳だ。
「ほぼ何もない」と言い切ってしまって差し支えない割合である。

つまりだ。
生まれた月が一緒。これだけで充分な「共通の話題」だ。そこを程々とし、そこから先は訊いてはならない。日まで一緒ならばさぞ盛り上がるのだろうが、確率的にリスクがあまりにも大き過ぎる。
でもよくよく考えたらさ、
そもそも誕生日なんか訊いたって大して盛り上がらなくない?

ちゃんちゃん。
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