第7話

文字数 1,092文字

アザレアたちの邸宅は、とても広い。様々な調度品で飾られていて、美しい。
アザレアの母親は、紫色が好きらしい。そのせいか邸宅の家具は紫色を基盤にしたものが多い。

俺はアザレアの部屋に上がったことはないが、魔導書がたくさんあるらしい。

魔法。この俺が魔法。

「セレスタから魔法のことを聴いたですって。」

「ああ。」

アザレアが俺の面倒を見に来たようだ。

「まったく、口が軽いのね。」

「悪く言わないでくれ。」

「まあ、いいわ。あなたにも魔法を伝えようと思っていたのは事実よ。あなたは細身で、戦闘や過酷な肉体労働には向いていないから、魔法の世界がもしかしたら合うかなと思ったの。」

「でも、魔法って高貴な身分の人間しか勉強できないっていうか、なんか色々あるんだろ?」

「いいえ。そのような空気感はあるけれど、一市民から魔法職として成り上がった人を色々と知っているわ。」

「今度、幻想市で魔導書の移動販売があるみたい。良かったら一緒に行かない?」

…アザレアから誘われた!
あの俺に興味ないアザレアが、俺と買い物に行きたいって…

どういうことだ?
まあいい。これはチャンスかもしれない。

「ああ、ありがとう。」
…こんな回答だと自然かな。

幻想市は、檸檬街道を貸しきって行われるバザーのようなものだ。この街、アークドルタの名物で、毎週のようにやっている。

幻想市では、色々なものが売られるらしい。
食料、書物、調度品、家具、そして奴隷も。

「わたしが興味があるのは魔導書市だけよ。あとは…なんというか低俗な感じがするから、用が済んだらすぐに帰りたい。」

「低俗?」

「奴隷市があるのよ。最低よね。幻想的でも何でもないわ。」
「田舎から口減らしで売られてきた子供や、女性、貧国の働き盛りの男性が主に売られてくるようよ。」

「恐らく、その場に立ち会ったら、わたしは正気ではいられないと思うから、もし通りにあったら、極力避けて通りたい。あなたの手を握ることもあるかもしれない。」

「手ぇ?手ぐらい別にいいぞ。」

「本当かしら。よろしく頼むわ。」

俺の身体なんて安いものだ。奴隷として売られて、男たちに輪姦され、そのまま孤児として名前も知られずに生きてきた。

そんな俺でも、頼りにされるなんてことがあるんだ。
なんというか、意外な感覚だった。

「ははっ」

「…?今、笑ったのはどうして?」

「いや、なんでもない。」

「手ぐらい安いもんだなって、本当に思ったんだよ。」

「…よくわからないけど、あなたが構わないのなら、ありがたいわ。」

「なあ、勉強はいつから始まるんだ?」

「わたしの休日にでもどうかしら。丁度明日ね。幻想市があるのは明後日。」

「休日か。よろしくな。」

「ええ。」
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