文字数 365文字

 橋に着き大声で名を呼ぶと、ママ、と聞こえた。
 向こう岸の少し川下に、優美の頭が見える。
 川岸の草をなんとか掴んでいるようだが、今にも流されていきそうだ。
 早苗は急いで駆け寄った。

「掴まって!」

 腕を伸ばす。
 しかし優美は、草から手を離せないようだ。
 よく見ると掴んでいるのではなく、なにか水色の細長い物が腕と草に絡まり、それでなんとか流されずにすんでいるだけだった。
 早苗は地面に寝そべると上半身を乗り出し、優美の二の腕を左手で掴んだ。
 それから右手で絡まっているものをほどこうとする。
 ずる、と身体が持っていかれ、早苗の頭は一瞬、水のなかへと突っ込んだ。

『さなちゃん』

 そのとき、ありえないはずの声が聞こえた。
 そう呼んだのは、ひとりしかいない。
 美里だ。
 そして、気がついた。


 絡まっているのは。

 あの日の、水色のリボンだ。
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