第2話(5)

エピソード文字数 1,549文字

「お、もうこんな時間か。そろそろ買い物行ってきてくれない?」

 お日様が一日の役目を終える準備を始めだす、16時。リビングのソファーで寛いでいた俺は、傍で洗濯物を畳んでいた魔王様に声をかけた。

「うんいーよ。どこに行けばいーのかな?」
「昼間チラッと寄った、達水(たっすい)スーパーマーケット。あそこで適当に、晩の食材を仕入れてきてくれ」

 横に置いてあった財布を取り、やや高圧的に千円札を渡す。
 資金少ないし偉そうだし昼に買っておけばよかったじゃんっ。そう思わせるのが、第4弾その1なのだ。

「悪いな。俺は眠いから頼んだぞ」

 欠伸をしつつぶっきらぼうに告げるのも作戦で、これは第4弾その2。自分だけ楽をすんなよ! こっちは実質、異世界1日目なんだぞ! ってムカッとさせるのが狙いです。

「にゅむー、ひとりかぁ。メイドさんのアルバイトをしてた時は、いっつも2人以上(ふたりいじょー)でお買い物してたなー」
「ん? 独りは嫌なのか?」
「んーん。逆だよ逆ーっ」

 彼女は心底嬉しそうに、両手で千円を包み込んだ。
 んんん? うれしそう、だと……!?

「アルバイトの時に複数(ふくすー)で行くのは、おつりを誤魔化して盗まないよーに互いを監視するためなの。ひとりでってのは、信頼(しんよー)されてる証だよねーっ」

 OH……。そう来ましたか……。

「しかも3食で1番重要(いちばんじゅーよー)な、夜の献立を任されるなんてっ。光栄(こーえー)だよーっ」
「あ、あぁそう……。んじゃまあ、ヨロシクね」
「にゅむむんっ。いってくるよー」

 魔王様はスクッと立ち上がり、ここで俺は更に作戦を実行。第4弾、その3を発動させる。

「そうだレミア、特売の卵も買ってきて。週に1度の卵激安デーだから、必ずゲットしてくれよ」

 と頼んだが、特売は午後4時スタートで限定数は50。この時間に家を出ると、まず残っていない。
 だーが俺は帰宅した彼女に、『なんでないの? 使えねーなぁ』と冷たくする。そうしたらレミアは理不尽だと感じ、一緒にいたくなくなるのだ。

「卵さんだねーっ。楽しみにしててよー」

 そうとは知らないレミアは、すんばらしい笑顔でお返事。右のお手手をブンブン振り、鼻歌まじりで出かけた。

「…………よっし、あとはのんびり帰宅を待つだけだな。レミアには悪いけど、暇潰しにテレビでも見るとしますか」

 リモコンをポチッと押して、スイッチオン。32型の液晶テレビの中で、地元を対象にしたニュース番組が始まった。

《それでは、次のニュースです》

 お、いいタイミングだ。お姉さんは、何を発表してくれるのかしらん?

《先週より県南部で、女子高生が誘拐されそうになる事件が多発しております。夜分、人気が少ない場所などは、充分注意してください》
「そういえばこの辺りで、何件かあったんだっけ。怖いなぁ――待てよ」

 俺はついさっき、16歳の少女を送り出した。人気が少ないルートを通らないといけない、達水スーパーへと。

「こ、これ……。危険、なんじゃないのか……?」

 あの子の身が。では、ない。

「レミアは、魔王で勇者だ。もし不審者が来ても瞬殺できる」

 だが彼女は、一介の女の子でもあるのだ。怯えてつい全力を出してしまい、辺り一面焦土と化す――が有り得る。

「もし……。もしそうなってしまったら……」

 関係のない人が、死ぬ。それも、何千何万という規模で。

「…………その予想が現実になったら、大大大惨事だ。万が一誘拐犯が出た時に備えて、尾行しよう」

 震える手でボタンを押し、テレビの電源をオフ。俺は兎瑠ちゃんやご近所の皆さんのため、大急ぎで家を飛び出した。
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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