第3話

文字数 632文字

ウトウトしていた。
水の音。
ガコン、ガコンとなにかがぶつかり合う音。
何故か息苦しい。
目を開けると、老眼鏡をかけた時みたいな薄ぼんやりの先に、また空が見える。
いい天気。
そうか、滝壺。
水は苦手だ。
幸い浅瀬。
起き上がろうとすると、誰かに押し戻された。
無表情な女が、ぼんやりの先に見える。
あ、君は。
ゴボゴボと、言葉にならない。
水を呑んだ。
苦しい。
気が遠くなる余裕すらない長い苦しみの果てに、やっと真っ白な世界。
瞬間水面から救い出される。
熱風が吹いてる。
彼女は居なかった。
ごめんよ、こんなにも苦しめたね。
感傷に浸るまもなく、前後からドンと衝撃、鋭い痛み。
声すら、出ない。
あ、君たち、そうだね、ごめん。
謝るまもなく姿はない。
血が吹き出す。
次に妻が現れた。
やつれている。
哀しい微笑を湛え、僕に口づけた。
否や、僕はやせ細り、彼女は血色良くふっくらと、子どもたち、彼女の両親の方へ、いきいきと走り出した。
振り向きもせずに。
うん、それで良いよ。
良かった。
やっと終わりだ。目を閉じる。もう苦しくない。
もう、痛みや苦しみにすっかり鈍感になっていた。
完全麻痺していた。
さっきからずっと、時々止まっては反転、廻り続けているのに気づいた。
いい気分、晴れやかに死を待つのみ。

10年、いや、5分、5秒

その永遠ののち、まだ生きてる。
目を開けると、僕を見つめる老婆。
驚いた。
おかあさん。
助けられなくてごめんよ。
馬鹿な息子で、ごめんよ。
声は、出なかった。
大きな石を持っている。
両の腕で、僕の頭に振り下ろす。
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