第16話(1)花巻へ

文字数 1,940文字

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「ここが花巻か……」

「雰囲気の良い、落ち着いた街ね」

 舞がジンライの呟きに応える。

「……」

「どうかしたのか、ドトウ?」

「ええっと。MSPの反応があったということだけど……」

「ああ」

「質問したいことが三つほどあるわ」

 ドトウが右手の指を三本立てる。

「け、結構あるな……」

「いいかしら?」

「ああ」

「まず一つ……何故新幹線で移動?」

「え?」

「え?ってドッポで車移動も出来たわよね?」

「まあな……」

「どうして?」

「どうしてって、時間的な問題だ」

「時間的って飛行機もあるわよね?」

「単純に……」

「単純に?」

「乗ってみたかったのだ、新幹線に……」

 ジンライは鼻の頭をこする。

「乗ってみたかったって、そんな子供みたいな好奇心で……」

「好奇心ではない……」

「え?」

「探求心だ」

「は?」

「この地球という星の……日本の科学技術レベルを体感しておくに越したことはない」

「ふ~ん……」

 ドトウが首をすくめる。ドッポが声をかける。

「ドトウサマ、ワタシにナイゾウサレテイル、『ウソハッケンキ』ヲシヨウナサレマスカ?」

「そ、そんなのあるの?」

「ハイ」

「う~ん、まあいいや」

「リョウカイシマシタ……」

「どう? 日本の高速鉄道は?」

 舞がドトウに尋ねる。

「うん、なかなか良かったわ……特に……」

「特に?」

「駅弁が良かったわ」

「ああ~」

「美味しかったわ」

「色んな種類のお弁当が各駅にあるからね~」

「え? 各駅に⁉」

「そう、帰りは違うのを食べてみても良いんじゃないかしら?」

「そ、それは楽しみね……」

 ドトウは口元をハンカチで拭う。ジンライが呆れる。

「ドトウ、よだれをたらしたのか? だらしない……うおっ⁉」

 ドトウがジンライの頭を小突く。

「大声で言わないでよ、お兄ちゃん、デリカシー無さすぎ……」

「今のはジンライが悪い」

 舞がうんうんと頷く。

「くっ……」

「それでもう一つの質問なんだけど……」

「ああ」

「何故に花巻を選んだの?」

「うん?」

「街の規模なら盛岡でも良かったと思うんだけど……」

「余裕があれば帰りに寄ってもいいぞ?」

「え?」

「……『わんこそば』は、祖先から伝わる「おもてなしの心」から生まれたこの地独特の伝統食文化だ。宴席で 大勢の客をもてなすために考えられたと伝えられている。一口大の小分けにした蕎麦を様々な薬味と共にたっぷりと味わうことが出来る。店舗によっても異なるが、15杯前後で通常のもりそば一杯分だと言われている。食べられるなら百杯だって、何杯だって食べても構わん」

「な、何杯だって……」

 ドトウが顎に手を当てる。

「ああ、給仕との掛け合いも楽しめる、盛岡の代名詞とも言える食文化だ」

「私は『盛岡冷麺』を推すわ。小麦粉とでんぷんによる強いコシの麺が独特の歯ざわりを生み出しているの。スープは牛骨・鳥肉等を煮込んで味付けしており、 飲み心地良くコクもたっぷりでキムチの辛さとぴったり。辛いのが苦手な人もキムチの量で辛さを調節することができるし。そして、 ゆで卵、キュウリ、季節の果物などが盛りつけられることによって多彩な味を楽しめるわ」

「ほ、ほう……」

 舞の説明にドトウが頬をさする。

「『モリオカジャジャメン』モオススメデス。メントトクセイノミソヲマゼアワセ、オコノミデカクシュチョウミリョウヲクワエテタベテクダサイ。タベレバタベルホド、クセニナルアジワイデス」

「ご、ごくり……」

 ドッポの説明にドトウが唾を呑み込む。舞が笑う。

「ふふっ、なんだかドッポの説明が一番効果的みたいね」

「プレゼンハトクイデスカラ」

 ドッポが誇らしげに呟く。

「い、いや、それは良いのよ、だからなんで花巻に?」

「この岩手県は、日本の都道府県で北海道を除けば、一番広いエリアだ……」

「あ、ああ……」

「このエリアではMSPが各地で広く点在している。この花巻を拠点にしておくと、どこで異変が起こっても、一番駆け付けやすいだろうと判断した」

「ふむ……」

「盛岡には地元ヒーローが十分間に合っているという……そこまで焦る必要はないのだろうとも考えた」

「ああ……」

「納得いったか?」

「まあ……最後にもう一つ」

「まだあるのか?」

「楽しみだな~舞! お前との花巻デート! 目当てはやっぱり『キーマスープ』!」

 ジッチョクがこれ以上ない満面の笑みで舞に語りかける。

「……それを言うなら『イーハトーブ』でしょ?」

「ああ、それだそれ!」

「……言っておくけど、食べ物じゃないわよ」

「ええっ⁉」

「デートとかいうならキチンと下調べくらいしてきてよね……あ、まずホテルにチェックインしなきゃ……あっちね」

「そ、そんな……」

「……なんであいつまで呼んだのよ?」

 ドトウがガックリと膝を落とすジッチョクを指し示しながら問う。
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